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婦人科 【 絨毛性疾患 】

1 絨毛性疾患(じゅうもうせいしっかん)とは
2 胞状奇胎(ほうじょうきたい)
3 侵入奇胎と絨毛癌(しんにゅうきたい、じゅうもうがん)
4 PSTT(胎盤部トロホブラスト腫瘍)

以下に説明する病気を疑われたり、これらの病気に関する不安やお聞きになりたいことがあれば、いつでも和歌山県立医大産婦人科の井箟まで、ご相談ください。

1 絨毛性疾患とは

 絨毛性疾患(じゅうもうせいしっかん)とは、妊娠中に子宮内の胎盤をつくる絨毛(じゅうもう)細胞(栄養膜細胞またはトロホブラストとも呼びます)の異常な増殖をきたす病気をいいます。
絨毛性疾患に含まれる病気として、胞状奇胎(ほうじょうきたい)、侵入奇胎(しんにゅうきたい)、奇胎後hCG存続症、絨毛癌(じゅうもうがん)、PSTT(胎盤部トロホブラスト腫瘍)などがあります。分娩後や流産後に子宮内に胎盤が残ってしまう状態である胎盤遺残や癒着胎盤は、似たような症状をしめすこともありますが、絨毛性疾患ではありません。
絨毛性疾患を理解する上では、胞状奇胎とそれ以外に分けて考える必要が有ります。すなわち胞状奇胎は妊娠初期の『異常妊娠』の1つとして治療しますが、その後に侵入奇胎や絨毛がんに進展する可能性があり、その場合には抗がん剤による化学療法や外科的手術など、『悪性腫瘍』としての治療が必要になります。

2 胞状奇胎

● 胞状奇胎の発生原因、頻度、分類 正常な妊娠は精子と卵子が1つずつ出会って受精することにより成立し、胎児となり発育しますが、胞状奇胎はこの受精機構がうまくいかないことが原因となり発生します。頻度は500-1000妊娠に1回程度で、とくに両親どちらかの先天的な遺伝子の異常と関連する病気ではなく、一般に健康なカップルから突発的に発生します。胞状奇胎の原因となるような受精の異常は頻繁におこるわけではないので、何度も反復することは極めてまれですが、40歳以上の高齢妊娠では頻度が上昇すると言われています。
胞状奇胎になると、胎盤の絨毛が、たくさんの小さな水が入ったつぶつぶのように変化するため、昔は『ぶどう子』と呼ばれました。これらを遺伝子学的に調べると、卵子の核が欠損した空の卵に精子のみが入ってできた、すなわち全ての遺伝子が精子(父親)由来である全胞状奇胎と、1つの卵子と2つの精子が受精した3倍体である部分胞状奇胎に分類できます。どちらも正常な胎児の発育はできません。ただし極めてまれなケースとして、胞状奇胎と正常な胎児との双子などの場合は、正常な赤ちゃんが得られることもあります(このようなケースでは妊娠を継続できるかどうか、専門医としっかり相談する必要が有ります)。

● 胞状奇胎の症状 胞状奇胎の症状としては、生理(月経)が来なくなったり、つわりがあるなど、正常の妊娠初期の症状と変わりないことが多いですが、流産に似た性器出血や腹痛などがおこることもあります。かなり妊娠週数が進んだ胞状奇胎では、高血圧・浮腫・蛋白尿などの症状を呈することがあるといわれています。

● 診断のために必要な検査 妊娠初期(2ヶ月から3ヶ月)の超音波(エコー)検査で、子宮内に特徴ある多数の嚢胞(のうほう)状パターンを認めたときには、胞状奇胎が疑われます。全胞状奇胎では正常な胎児のエコー像は認めません。ただし妊娠週数の早い全胞状奇胎や部分胞状奇胎では、超音波検査では流産との鑑別が難しいこともあるので、最終的な診断名は、手術後の子宮内容物の病理検査の結果をみてから決まると考えてください。つまり、正常妊娠でないことは超音波検査でわかりますが、胞状奇胎か流産かは、手術後に確定されます。 また胞状奇胎の患者さんでは、胎盤から分泌されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが通常の妊娠に比べて高値を示すことが多いので、血液中(または尿中)のhCGの値を測定し、診断の手助けにします。

● 胞状奇胎の治療と診断の確定 胞状奇胎の治療は、子宮内容除去術(胞状奇胎除去術)です。通常の流産の手術と方法はかわりませんが、手術中の出血に対する管理や病理診断、後述する術後の通院管理をしっかりおこなえる病院(大学病院や大きな公的病院など)で手術をうけたほうがよいでしょう。1週間後に再度、子宮内のそうは手術を行うかどうかは、術後の超音波検査や病理診断などでその必要性を判断します。
胞状奇胎かどうか、全胞状奇胎か部分胞状奇胎かは、病理検査結果に基づいて手術後に診断が確定します。手術前に超音波検査で胞状奇胎が疑われていても、術後の病理検査で流産と診断されることもあり、最終診断が流産であれば、次項にしめす定期的なホルモン検査を続ける必要はありません。

● 胞状奇胎の手術後の通院の必要性  全胞状奇胎の10~20%、部分胞状奇胎の0.5~4%の患者さんは、胞状奇胎の後に侵入奇胎という病気へと進行します。また全胞状奇胎の1~2%はさらに悪性の絨毛がんへと進展するといわれています。これらの病気が胞状奇胎後に発生した場合は、抗がん剤を中心とした治療(詳細は次の項参照)が必要になるため、胞状奇胎の患者さんにとって重要なことは、手術後の定期通院をしっかり行って、これらの病気の発生がないかどうか、担当医にチェックしてもらうことです。
 手術後に全胞状奇胎または部分胞状奇胎と診断されたら、必ず外来に通院し、血液中のhCG値(妊娠性のホルモン)を定期的に検査してもらいましょう。最初の3ヶ月ぐらいは1~2週間毎に血液中のhCG値を測定します。経過が順調であればhCG値は3~4ヶ月以内に(遅くとも6ヶ月以内に)正常値に下降します。hCGの下降が不良であれば、侵入奇胎を疑って超音波検査やMRI、CTなどの検査を行います。hCGが正常値に到達後も、1ヶ月に1回程度の血中hCG値の測定を継続し、6ヶ月間正常値が続けば、次回妊娠を許可されます。その後も約4年間は3~4ヶ月に1回程度のhCGの通院検査を続けることが望ましいです(途中に妊娠・分娩があれば、分娩後に定期通院を再開します)。hCGが正常値になった後に再上昇する場合(新たな妊娠を除いて)は絨毛がんを疑い、画像検査による病巣の精査を行います。

● 胞状奇胎後の妊娠について 胞状奇胎は妊娠可能な年齢の女性の誰にでも起こりえる病気です。胞状奇胎の除去手術をうけられた方は、必ず定期通院し、hCGを測定するようにしましょう。経過が順調で担当医から許可がでたら、次の妊娠・分娩に向けて前向きに進みましょう。胞状奇胎後の次の妊娠やお産、生まれてくる赤ちゃんに対する影響は特にないと考えてよいでしょう。

3 侵入奇胎と絨毛癌

● 侵入奇胎(しんにゅうきたい)とは 胞状奇胎の一部の組織が子宮の筋肉の中や血管の中へと侵入した状態を侵入奇胎といいます。全胞状奇胎の10~20%、部分胞状奇胎の0.5~4%に侵入奇胎が発生します。発生する時期は胞状奇胎の除去手術の後、多くは2~3ヶ月以内、遅くとも6ヶ月以内です。また血管に侵入した胞状奇胎の組織が肺に転移するケースが約1/3と高頻度にみられます。まれに腟に転移することもあります。
侵入奇胎そのものは、がん(悪性腫瘍)ではありませんが、増殖したり転移したりすること、治療に抗がん剤が必要なことから、一種の前がん状態と考えることもできます。ただし適切な治療を受ければ、ほぼ100%治癒する病気です。
 なお、胞状奇胎後の経過やhCG(ホルモン)値の下降不良から、侵入奇胎を疑うが、エコーやCTなどでも子宮や肺に病巣がみつからない場合は、奇胎後hCG存続症という病名となります。奇胎後hCG存続症は、画像検査では見えないぐらい微小な侵入奇胎の病巣が体のどこかにある状態と考えられ、軽症の侵入奇胎と考えてよいでしょう。

● 絨毛癌(じゅうもうがん)とは 絨毛がんは胎盤を作る絨毛細胞が悪性化して増殖や転移をする悪性腫瘍です。胞状奇胎後の患者さんの1-2%に発生しますが、正常分娩や流産など胞状奇胎以外の妊娠の後にも、稀ではありますが発生することがあります。これらの妊娠終了後から絨毛がん発症までの期間は数ヶ月から数年以上とまちまちです。胎盤を作る細胞が、がん化する原因は不明ですが、胞状奇胎や侵入奇胎を発症した患者さんは、後に絨毛がんが発生する可能性も稀にあることに注意が必要です。
絨毛がんは肺、脳、肝臓などに転移を起こし易く、悪性度の高いがんですが、抗がん剤が非常に良く効くので、正確な診断と適切な治療をうければ、ほとんどは治癒できる病気です。

● 侵入奇胎と絨毛がんの症状 侵入奇胎・絨毛がんで、子宮に病変がある場合は、性器出血を認めることが多いですが、無症状のこともあります。また下腹部痛を伴うことがあります。侵入奇胎の肺転移は小さなものが多いので、ほとんど症状は有りません。絨毛がんの場合は全身に転移し易く、転移病巣の増大も早いので、肺転移による咳や胸痛などの呼吸器症状、脳転移による頭痛・痙攣・手足の麻痺・意識障害、肝転移による腹痛など症状が認められてから、はじめて絨毛がんとわかることもあります。

● 侵入奇胎と絨毛がんの検査 (1)超音波検査:子宮に病巣が有る場合は、子宮の内腔や筋肉内に血流豊富な病巣を形成するので、カラードプラによる超音波検査が有用です。ただし、侵入奇胎と絨毛がんを超音波検査のみで明確に区別することは困難です。
(2)骨盤MRI:子宮に造影効果を有する腫瘍が認められます。
(3)CT:侵入奇胎の約1/3に、絨毛がんの2/3の症例に肺転移を認めるため、胸部単純X線撮影のみでなく、胸部CTのスクリーニングは必ず必要です。絨毛がんを疑う場合は、上下腹部CT・頭部CTも施行し、全身の転移病巣の有無を調べます。
(4)血中hCG測定:胞状奇胎と同様に、侵入奇胎や絨毛がんでも病巣からhCGというホルモンが分泌されるため、治療前および治療中の効果判定にも腫瘍マーカーとして血液中のhCG値を測定します(mIU/mlの単位で測定)。

● 侵入奇胎と絨毛がんの判別と治療法の選択 侵入奇胎も絨毛がんも、ほとんどが20歳代から40歳代の生殖年齢に発生するので、子宮を温存して治療後の妊娠を希望するケースが多く、また両者とも抗がん剤による化学療法が良く効く腫瘍であるため、化学療法が治療の中心となります。しかしながら絨毛がんは侵入奇胎に比較して悪性度が高く、転移も広がり易いため、治療前に両者を判別して、それぞれに適切な抗がん剤を選択する必要が有ります。両者の鑑別は手術による病巣の病理診断が得られない場合が多いので、ほとんどのケースで臨床的なスコアリングにより行われます。スコアリングには、直前の妊娠の種類、妊娠終了から発症までの期間、病巣の場所、転移の場所や数など複数の項目で判断されます。主治医の先生に自分が侵入奇胎と絨毛がんのどちらに該当するのかをよくきいて、納得してから治療に入るようにしてください。
 なお、画像検査で病巣がはっきりしない場合は、前述のように奇胎後hCG存続症という診断となり、治療法は侵入奇胎と同様の抗がん剤治療をおこないます。

● 侵入奇胎の治療と予後 侵入奇胎や奇胎後hCG存続症(ローリスク群)に対する治療は、メトトレキサート(通常は5日間の筋肉注射を2週間ごと)またはアクチノマイシンD(通常は5日間の静脈注射を2週間ごと)のどちらかの抗がん剤による化学療法をおこないます。血液中のhCG 値の下がり具合をみながら、数コース繰り返して、hCG値の下がりが良好であれば同じお薬を続けていきます。hCG 値が正常値になってから、さらに1-3コースぐらい地固め的な追加化学療法をおこなって終了します。通常トータルで4-8コースぐらいは必要となることが多いです。最初の抗がん剤のみで寛解する率は60~90%なので、10~40%の患者さんは、はじめの抗がん剤に抵抗性であったり、副作用が強いなどの理由で、薬剤変更をすることになります。メトトレキサートからアクチノマイシンDへの変更、エトポシドへの変更、あるいはこれらのうちの2剤を併用する方法などが使用されます。最終的な治癒率は、ほぼ100%です。まれに寛解後にしばらくたってから再発することも有ります。

● 絨毛がんの治療と予後 絨毛がん(ハイリスク群)に対しては、初回よりメトトレキサート・アクチノマイシンD・エトポシドの3剤を含む多剤併用化学療法(EMA/CO療法またはMEA療法)が選択されます。初回治療による寛解率は80%程度です。初回治療に抵抗性を示す症例にはシスプラチンや5-FUを含む組み合わせが使用されます。再発を予防するためhCGが正常に下降後、3-4コース以上の追加化学療法が奨められています。したがって侵入奇胎と比較して、化学療法もヘビーでコース数も多くなると考えてください。絨毛がんにおいては抗がん剤に抵抗性の病変や制御困難な出血などに対して、子宮摘出術や転移病巣の手術が必要になることがあります。また脳転移を起こした場合は、開頭手術や放射線療法(ガンマナイフなど)が行われることもあります。したがって絨毛がんの場合は、この病気に詳しい婦人科腫瘍専門医や他科の協力体制のある大学病院などで治療をうけるほうがよいでしょう。絨毛がんの生存率は90%前後と高く、転移を伴うケースであっても最終的にはほとんどが征圧できる病気なので、希望をもって治療に望むことが重要です。

● 化学療法(抗がん剤)の副作用 メトトレキサートの主な副作用は肝機能障害、口内炎、湿疹です。アクチノマイシンDでは嘔気、脱毛、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)が主な副作用です。エトポシドは脱毛や嘔気があり、骨髄抑制もやや強く認めます。口内炎対策にはうがい薬を用いたうがいと軟膏など、白血球減少にはG-CSFという注射を使用します。侵入奇胎や絨毛がんの治療では、できるだけ決められたスケジュール通り実施することが大切で、むやみに投与間隔を延長しないように積極的な副作用対策を施行します。骨髄抑制が強く出る場合には、抗がん剤の投与量を減量することもあります。卵巣からのホルモン分泌や排卵への影響は、メトトレキサートやアクチノマイシンDではほとんど認めませんが、エトポシドや多剤併用療法では投与回数によって、一時的な卵巣機能不全になる場合があります。

● 侵入奇胎や絨毛がんの治療後の妊娠について 治療終了後の再発は1年以内が多く、新しい妊娠によりhCGが上昇すると再発がわからなくなるため、治療終了後1年間は避妊が必要です。hCGが正常値のまま1年経過すれば、妊娠許可となります。治療終了時に自然に月経が認めず、卵巣機能不全の場合には、女性ホルモン剤を用いた治療により周期的な月経を来させます。通常は1年以内に自然月経(排卵)周期が戻ります。抗がん剤治療後に妊娠した場合の流産や早産の率、児の先天奇形の発生率は一般の妊娠と変わりません。

4 PSTT(胎盤部トロホブラスト腫瘍)

● PSTTとは PSTT(胎盤部トロホブラスト腫瘍)は非常にまれな絨毛性疾患の1つであり、正常分娩や流産、胞状奇胎の後にしばらくしてから、子宮に発生する腫瘍です。侵入奇胎や絨毛がんと症状や画像検査所見(超音波検査やMRIなど)は似ていますが、血液中のhCG値が低いこと、抗がん剤の効果が低いことが特徴です。診断の確定には、手術や生検で得られた病巣の病理検査が必要です。胎盤遺残や癒着胎盤などとの鑑別が難しいケースもあり、専門医による診断が必要な疾患です。

● PSTTの治療 一般に病巣が子宮のみに限局したケースでは子宮摘出術が選択され、ほとんどが治癒します。ただし次の妊娠を希望し子宮を温存したいPSTTの患者さんの場合は、治療法はケースバイケースで行われていますが、確実な方法は確立していません。一方PSTTの15-20%には子宮以外の転移病巣を有する症例があり、このようなケースでは手術に加えて絨毛がんと同様の多剤併用化学療法が行われますが、転移病巣に対する有効性は確立しておらず、治癒率も低いといわれています。PSTTは稀な疾患で、他の病気との鑑別や治療法も難しいので、PSTTの疑いがあるといわれたら、この病気に詳しい専門医のいる病院で治療をうける方がよいでしょう。



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