これまでご説明した通り、硬膜外無痛分娩をしたからといって、赤ちゃんに麻酔薬の影響が出ることはなく、赤ちゃんに危険が迫って仮死状態になる頻度も「麻酔なしの分娩」と「硬膜外無痛分娩」に差はありません。逆に分娩ストレスを軽減することにより、胎児胎盤循環を改善させ、赤ちゃんに対する良い影響が期待できます9)。
子宮収縮が規則的になって(分娩開始)から子宮口が10cmに開く(全開大)までの時間を分娩第一期、子宮口全開大から赤ちゃん誕生までの時間を分娩第二期、赤ちゃん誕生から胎盤が出て分娩が終了するまでを分娩第三期と呼んでいますが、一般的に分娩第一期は初産の方で10-12時間、経産の方で5-6時間、分娩第二期は初産の方で2時間、経産の方で1時間、分娩第三期はいずれの方の場合も15-30分程度です。硬膜外無痛分娩を行うと分娩第一期の長さは変わりませんが、分娩第二期は多少長くなると考えられています。しかし、赤ちゃんへの悪影響はないとされています10)。
麻酔を使わない分娩では、赤ちゃんが生まれる相当前の段階から痛みによる反射的な子宮収縮が発生して赤ちゃんへの悪影響が心配されるため、呼吸法により「いきみ」をのがすように指導します。しかし硬膜外無痛分娩では、そのような反射的な子宮収縮はなく、「いきみ」が必要な段階になってから子宮の収縮に合わせて自分でいきみます。この違いのため、分娩第二期は長くなると考えられていますが、硬膜外無痛分娩により産婦さんに痛みのストレスがなく、産道も柔らかくなっていることが多いことから、分娩第二期が多少長くなっても赤ちゃんへの悪影響はないと考えられています11)。むしろ最近では、硬膜外無痛分娩では分娩第二期になったからといって、すぐにいきむのではなく、ある程度時間が経ってからいきむほうが母子ともに負担が少ないため、分娩第二期は更に長くなっても良いとさえ考えられるようになってきています12)。
硬膜外無痛分娩では、子宮収縮を強くする薬を使用したり、吸引分娩が必要になることもあります。これらの頻度は、様々な要因が関係して麻酔を用いない分娩に比べ高くなる傾向があります。しかし、産科医、看護スタッフ、新生児科医、麻酔科医らが産婦さんと赤ちゃんの状態を注意深く観察していますので御安心下さい。
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