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婦人科 【 卵巣がん 】

卵巣がんとは

 卵巣にできる腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、85%は良性です。また、良性と悪性(卵巣がん)の中間的な悪性度である境界悪性腫瘍と呼ばれるものもあります。『卵巣腫瘍』とは、これらの良性、境界悪性、悪性(がん)の3つのすべてを含んだ病名であり、腫瘍=悪性ではありません。
 卵巣の腫瘍はその発生する起源によって大別され、表層上皮性・間質性、性索間質性、胚細胞性などの種類があります。最も多いのは、卵巣の表層を覆う細胞に由来する表層上皮性・間質性腫瘍です。上皮性のがんは卵巣がん全体の90%を占めています。 卵巣がんは、主に4つの組織型(漿液性腺がん・粘液性腺がん・類内膜腺がん・明細胞腺がん)に分けられ、それぞれ異なった性格をもっています。 また漿液性腺がんの中には、卵巣発生かどうかわからないが、お腹全体に広がるタイプの腹膜がんとよばれるものも含まれます。

卵巣がんは、どのように発生するか?

 卵巣がんの発生数のピークは50歳代で、中高年の女性に多いですが、胚細胞腫瘍など10歳代-20歳代の若い女性に多いものもあります。
 卵巣がんの発生原因は、一部の遺伝性のもの(遺伝性乳がん卵巣がん症候群など)を除くと、はっきりとわかっていません。多くの卵巣がんは前がん状態を経ずに突発的にがんとして発生しますが、一部の卵巣がんは、良性腫瘍・境界悪性腫瘍を経て段階的にゆっくりとがん化するものもあります。最近の研究で、卵巣の子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)の0.7%が卵巣がんへとがん化するとの報告があり、一部の卵巣がんの悪性化の過程が判明しつつ有ります。

主な症状

 卵巣が腫れている状態であっても、かなり大きくなるまで無症状のことが多いです。腫瘍が小さい場合は、婦人科検診の際に経腟超音波検査などで偶然発見されることがあります。大きくなると腹壁から自分の手で腫瘍を触れたり、あるいは腫瘍による圧迫症状がみられるようになります。腹水を伴うと、その量に応じた腹部の腫大と腹部膨満感が出現します。腹水が増量し胸水も認められるようになると、呼吸苦が出現します。胸腹水は良性卵巣腫瘍でも発生しますが、悪性の場合により多く見られます。卵巣腫瘍は悪性、良性に関わらず、捻れたり(卵巣腫瘍茎捻転)、破裂したりすることがあり、この場合は激痛を伴います。いずれにせよ、卵巣がんは初期には症状が出にくく、かつ、比較的早期からお腹全体の腹膜に転移(は種)し易いので、初診時にすでに骨盤内に広がっている進行期2期やお腹全体にひろがっている進行期3期以上で発見されることもめずらしくありません。

検査法は

 超音波検査やCT、MRI、PET/CTなどの画像検査で、大きさや形状などから、良性パターンか悪性パターンかを推定診断します。また卵巣以外の臓器や腹膜、リンパ節などに転移がひろがっているかどうかを調べます。血液中の腫瘍マーカーであるCA125, CA19-9, CEAなどが悪性のとき上昇する頻度が高いので、診断の参考となります。いずれにせよ、子宮頸がんや子宮体がんと異なり、手術前には細胞や組織の診断が得にくい病気ですので、手術前の画像検査でがんの可能性があるかどうかをしっかり評価した上で、手術方針を選択しますが、最終診断は手術中および手術後の摘出した腫瘍の病理検査で決定します。

卵巣がんの治療

 卵巣がんの治療は、まず手術を行い、たとえ完全に摘出できなくても出来るだけ腫瘍を取り除き、術後に化学療法を行うのが基本です。根治手術としては子宮、両側の卵巣、大網(お腹の中の膜状の組織)、リンパ節の切除をおこないます。大腸や小腸など周辺臓器に癒着が有る場合は、消化器外科の先生と協力して、腸管合併切除をおこなうこともあります。一方進行期1期の片側の卵巣のみにがんがとどまっていて、なおかつ将来妊娠を強く希望されるケースでは、片側の卵巣のみをとる温存手術をおこなうこともあります。また初診時にすでに3期以上の進行がんでがんがかなり広範囲に広がっているようなケースでは、手術前に抗がん剤化学療法を優先しておこない(TC療法)、病変が縮小してから、手術をすることもあります。
 当科における2013年の治療実績は22例で、全例に手術を行いました。卵巣がんは悪性腫瘍のうちでも化学療法が比較的効く疾患ですが、組織型の種類によって効く薬が違いますので、たとえ手術で取り除くことが不可能でも手術によって組織型を診断して抗がん剤を選択する必要があります。
 上記のように原則として手術を行い、化学療法を組み合わせて治療します。再発時にはまれに放射線治療をおこなうこともあります。抗がん剤治療はTC療法(パクリタキセル、カルボプラチン)が治療の根幹ですが、TC療法後の再発症例に対しても、種々の抗癌剤(イリノテカン、シスプラチン、ドセタキセル、ゲムシタビン、ノギテカン、ネダプラチン、ドキシルなど)を工夫して用いています。2013年11月に、血管新生阻害薬である分子標的薬ベバシズマブ(アバスチン)が卵巣がんに使用できるようになりました。本薬剤は独特な作用機序ゆえに、特有の副作用に対して注意が必要ですが、当科では相応しい患者さんに対し安全に投与を実施しており、重大な副作用は経験していません。
 卵巣がんの進行期別の生存率の全国データでは、進行期1期で90%前後、2期で70%前後、3期では30-50%程度、4期では10%台ですが、各種薬物療法の進歩で、少しずつ改善されてきています。

最後に

 卵巣がんは早期発見しにくい病気であり、発見時には、すでにある程度進行していることも多いですが、抗がん剤が比較的良く効くがんでもあるので、手術と抗がん剤であせらず、じっくり治していくことが大切です。



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