和歌山県立医科大学 血液内科

Q&A

血液内科に対する疑問についての一問一答

Q1.血液内科は何を診察している科ですか?

A1. 血液内科は血管を流れている血液細胞やその血液細胞を作っている骨髄・リンパ節や止血の異常を専門に扱う診療科です。
 血液の成分には体に酸素や栄養分を運ぶ赤血球と、細菌やウイルスをやっつける白血球、それにケガをした時に出血を止める役目をする血小板や凝固因子があります。これらの異常で、様々な種類の貧血(鉄欠乏性貧血, 溶血性貧血)や血液を上手に作れなくなる病気(例えば再生不良性貧血, 骨髄異形成症候群)、悪性化する病気(白血病や悪性リンパ腫, 多発性骨髄腫など)、出血しやすくなる病気(血小板減少症や血友病など)が出てきます。これらの一部は、例えば胃腸の病気・肝臓や腎臓など他の臓器の疾患や、ウイルス感染・リウマチの様な全身の病気でも出てくることもあります。

 血液内科ではこういった様々な血液系の問題について診断し、疾患や病態に応じて治療をしています。また、和歌山県立医科大学附属病院はエイズの拠点病院でもあって、HIV感染症の診断・治療も行っています。

輸血照合中

Q2.血液の病気になると、どのような症状がみられますか?

A2. 疾患や病態によって症状は様々です。
 貧血の症状としてはふらつき、めまい、耳鳴り、少し動いただけで胸がドキドキするとか疲れやすいといった症状が出ることがあります。
 白血病では、発熱・全身倦怠感等の感染症(例えば肺炎や咽頭炎等)の症状が生じてきます。これは、異常な白血球が増えるかわりに、正常に細菌やウイルスを退治する白血球が少なくなってしまったり、正常な免疫反応が低下したりするからです。また、骨髄内で赤血球・血小板の素になる細胞が少なくなりますので、先ほど述べた貧血の症状が出る他、出血しやすくなって歯ぐきから出血しやすくなったり、ぶつけてもいないまたは軽くぶつけた程度なのに青あざが出来やすくなったりします。
 悪性リンパ腫では首や脇の下・足の付け根などにあるリンパ節が腫れてしこりがあるのに気が付いたり、熱がでたり体重が減ったりすることがあります。リンパ腫はリンパ節だけでなく、内臓のリンパ球があるところに出てくる事があるので、他の臓器の症状が出ることもあります。たとえば、肝臓でリンパ腫が大きくなると肝臓の異常と似た、黄疸や疲れやすいといった症状も出る可能性があります。
 多発性骨髄腫では骨の痛みが出たり、骨が弱くなるので大した怪我でないのに骨折したりという事で発症したりして、最初に整形外科を受診される方が結構多いです。貧血の症状等が生じる事があります。  血小板が減ると口の中の粘膜や足の皮下などに斑点(点状出血)が生じることがあります。同じ出血性の病気でも、血友病や凝固系の病気では関節・歯肉等に出血を生じます。

 けれども、血液疾患にかかってもまったく自覚症状がなくて、健康診断や他の疾患のために採血をして初めて異常に気付くといった事もあります。

点滴ボトル

Q3.どのように治療していくのですか?

A3. 難しい質問ですね。
 疾患によって、また患者さんの年齢・体力などの条件でも変わってきます。
 例えば貧血の場合免疫系の異常によって生じる貧血には免疫抑制剤等を使うことがありますが、同じ貧血でも鉄欠乏性貧血なら、鉄がたりない原因を取り除いたり、鉄分を補給したりします。けれども、例えば白血病が原因で貧血になっているときには、後で述べる白血病の治療をしなくては改善することはない訳です。

 出血症状を来す疾患も原因によって治療は変わってきます。例えば、特発性血小板減少性紫斑病という免疫反応で血小板が壊される病気では、ステロイド剤や免疫反応を抑える様な薬を使う事もありますが、時には脾臓をとる手術を必要としたりする事もあります。患者さんによって原因も重傷度もまちまちですので、それぞれの症例で検討して治療していくことになります。肝臓で作られる、凝固因子という物質が足りなくて出血しやすい場合は、全身に他に原因がなければ凝固因子を補う治療を行う事もあります。
 また、白血病・リンパ腫などの腫瘍性の病気に対しては、抗癌剤の点滴や飲み薬を使います。抗癌剤の使い方は疾患によって違いますが、普通は何種類かのお薬を組み合わせて何日間か続けて行うことが多いです。抗癌剤は癌細胞だけでなくて、正常な血液の細胞も一部こわしてしまうので、白血球が少なくなって感染症を生じやすくなったり、貧血や血小板が足りなくなったりすることがあります。この様な時は、抗生物質で感染症の治療を行い、赤血球や血小板の輸血をして、正常な血液成分の回復を待ちます。血液の成分を回復させるためにG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という薬を注射することもありますが、白血病の中にはこのお薬が使えない事もあります。通常何回かの抗癌剤治療を繰り返します。通常の抗癌剤治療で治りにくいと考えられる疾患に対しては、造血幹細胞移植(骨髄移植など)を行うこともあります。

輸血パック

Q4.造血幹細胞移植について教えて下さい。

A4. 造血幹細胞移植は難治性の白血病・リンパ腫や再生不良性貧血等の血液疾患に対して、全ての血液の素となる幹細胞を移植する治療です。移植する幹細胞を白血球の血液型であるHLAが一致した家族、骨髄バンクから貰って移植する骨髄移植と、先ほど述べたG-CSFという薬を使って血液中から集めてきて移植する末梢血幹細胞移植、赤ちゃんのへその緒から集めてくる臍帯血移植があります。また、幹細胞移植には、ご家族や骨髄バンクなどから元気な方に幹細胞を貰う、同種幹細胞移植と、自分の正常な幹細胞を前もって採取しておいて、抗癌剤治療の後に自分の体に戻す自己幹細胞移植があります。
 同種移植の場合は通常患者さんには無菌室に入って頂いて、前処置と言われる抗癌剤等を使った治療を行います。その後幹細胞を含む骨髄液あるいは血液を点滴することで移植します。移植した幹細胞が患者さんの体から拒絶されないように患者さんの免疫力を抑制する治療や、骨髄への生着と血液成分の回復を促進する様な治療をしながら、造血能の回復を待ちます。自己移植の場合は、自分の血液ですから生着も良く、免疫抑制剤を使う必要がありませんので、無菌室内で行う必要はありません。

Q5.骨髄の採取は痛そうなのですが...?

A5. 幹細胞を採取する方法として、骨髄液の場合は腰の辺りの骨に針を刺してとります。全身麻酔のもとですので、採取する時は痛みを感じません。麻酔が覚めた後、少し痛い方もおられる様ですが、通常の痛み止めで治まる位の事が殆どです。末梢血幹細胞を採取するときは、骨の中で血液の素になる細胞を刺激して増やそうとするので、採取前に腰や足の骨が少し痛くなる方もおられます。

幹細胞採取

 また、採取する時には両腕の血管や足の付け根の太い静脈に針を刺すので、多少の痛みは伴います。いずれも痛み止めで、抑えられる程度です。

Q6.白血病は治らないイメージがあります。骨髄移植をすれば治るのでしょうか?

A6. 白血病は確かに治りにくい病気ですが、通常の抗癌剤を含む化学療法で治る方もいらっしゃるのです。通常の化学療法では根治が難しいと思われる方に、造血幹細胞移植を考慮するわけですが、残念ながら移植をすれば必ず治るという訳ではありません。幹細胞移植をしても白血病が治らない方もおられますし、白血病の状態が良くても、合併症のために大変な思いをされる方もいらっしゃいます。でも、通常の治療で治りにくくても、幹細胞移植を行う事で治癒する割合が高くなることは言えます。

Q7.血液内科の特色を教えて下さい。

A7. 血液は全身を流れているものなので、ある特殊な病態を除いて「取って治す」という事が難しいですし、局所だけの治療と言うわけにいきません。患者さんの全身の状態を把握して、それぞれに応じた全身管理を行う事が必要とされます。それにリンパ腫や白血病等の治療は、他の腫瘍に比べて抗癌剤の量がとても多いし、繰り返して治療を行うので、患者さんも、我々医療スタッフも粘り強さが必要です。大変な治療を終えられて、お元気になる患者さんのお姿を拝見するのは、とても我々にとっても嬉しく有り難く思えます。それに、ほんの少し昔まで研究室レベルだった治療が実際に広く臨床で応用されるようになっていて、白血病・リンパ腫の治療に於いてすばらしい効果をあげており、医学研究の素晴らしさを実感できる科でもあると思っています。

共同作業中

Q8.血液内科の病棟はどういう雰囲気ですか?

A8. 和歌山医大の5階西病棟の看護スタッフさんは、とても気さくで親切ですよ。血液内科の患者さんは、重症の方もいらっしゃいますし、無菌室や個室内での治療が必要な方も多いので大変なのです。血液内科病棟の看護師さんは抗癌剤や免疫抑制療法を必要とする患者さんの看護のプロです。患者さんの心身を支えて、治療に専念出来るようにバックアップしています。それにより良い医療を提供するために、熱心に勉強していると思います。

症例検討
相談中

 それから、忘れてならない事が、抗癌剤治療を専門とする薬剤師の先生の存在です。薬の処方や併用について我々医師が御相談できる強い味方であることは勿論、患者様に直接薬の飲み方や効果・副作用等を説明して下さいます。また病棟の患者様への抗癌剤治療は、薬剤の無菌調剤を専用の設備で行っており、より安全かつ無菌的に抗癌剤を使用しております。

 この点でも、薬剤部の先生方の強いバックアップがあるからこそ、自信をもって患者様に医療サービスが提供できると思っています。
 患者様方はそれぞれご病気と闘っておられ大変なのにもかかわらず、お互い助け合っておられる印象があります。良性の疾患の方も悪性疾患の方もおられますが、支え合って治療されていて、明るい雰囲気です。

Q9.血液内科はどんな雰囲気の医局ですか?

A9. そうですね。Familial・・・家族的な感じです。医局には「ただいま〜っ」と言いながら入っていきますし,誰かがいれば「おかえり〜」と迎えてくれます。勿論、外来や病棟に移動するときには「行ってきま〜す」になるわけです。

職場の華

 メンバーはなかなか個性的です。講義の準備にとても熱心な教官がおりますが、実は彼は学生時代ロックバンドを組んでいて、自信をもって出演したステージで全く受けなかったトラウマがあるので、どうしたら学生さんに受けて興味を持って貰える講義をできるか常に悩んでいるのだそうです。不思議な物まねが得意な、笑わせ上手のスタッフもおりますが、最も得意とすることは「神出鬼没」との事で、確かに広い院内のあちこちでほぼ同時に沢山の仕事をこなす彼はとても一人で仕事しているとは思えないので、私は実は3つ子なのではないかと疑っております。
 仕事の事でもプライベートでも、血液内科のスタッッフにはいろいろ相談できて、熱く患者様の治療方針や研究、時には医療問題について語ったりしています。結構ミステリアスな趣味を持つ人もいるので、気楽な会話になると意外な時に不思議な魅力を発見できる、飽きない方が多いです。関西らしくボケと突っ込みに役割が別れているような気はしますね。でもちょっと突っ込み系の人が多くて、何故か「ボケ」担当を任されている私を含める2名は、ちょっと忙しい気もしています。一緒に突っ込まれてくれる方がもっといらしたら嬉しいのですが・・・。

紀三井寺の夕焼け 花火

 あと、研究室から海と山と和歌山の街の向こうにお日様が沈んでいくのが見えるのです。この夕景は最高です。先日は夕暮れ後の研究室から、花火も見えて感激でした。

Q10.どうして先生は血液内科を専攻されたのですか?

A10. 私は大学生の頃の講義で血液の細胞をスライドや顕微鏡で見て、ヒトの体の小さな血管の中にこんなに綺麗で複雑なものが沢山ある事が神秘的だな〜、と思ったのが興味のきっかけです。これについては、ある一定の染色体や遺伝子の異常から、血液や骨髄の細胞の形の異常が同じ様に生じるし、似たような白血病やリンパ腫になったりするのはとても不思議な事だと、最近ますます思います。それから、学生実習で勉強させて頂いた患者様方で、とっても大きな腫瘍があるリンパ腫の方や全身状態の悪い白血病の方が、化学療法で劇的に改善するのを目の当たりにして興味が深まりました。他の内科や一部の外科系にもとても興味があったのですが、血液学の魅力にグイグイ惹かれてしまいました。
 何より学生の頃にお世話になった出身大学の血液内科の先生や、研修医の頃に出会った素晴らしい先輩方に、いつの間にか影響されてしまったというのが決定打ですね。

Q11.血液型で性格が判るって本当ですか?

A11. えっ・・・と、血液型って赤血球の表面にある、抗原という血液型物質で決まるのです。一般には大まかにA型・B型・O型・AB型の4種類ですよね。Rhプラスの人とマイナスの人がいらっしゃるし、珍しい血液型の人もおられますが。ヒトの性格が4種類の抗原で分類できる筈ないじゃない・・・と、私は思っていたのですが、最近そういう事もあるのかな〜という気もしています。例えば、うちの教授は非常に几帳面で私の対極におられる様な方です。彼の血液型はAAA(トリプルA)型だという噂が飛び交っていますが、実のところは不詳です。これは医局内でも誰も知らないミステリーかつシークレット事項だそうです。少なくとも我々の医局に、「血液型占い」を気にするメンバーがいることは確かの様ですが・・・・。

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