和歌山県立医科大学 血液内科

研究内容の紹介

中熊秀喜,花岡伸佳

 骨髄不全症候群(BFS)の病態解明

我々は造血障害と白血病化を特徴とする骨髄不全症候群、中でも特に、発作性夜間血色素尿症(PNH)の分子病態を追究しています。これまで主病態の溶血の全容解明に寄与し、また発症をもたらす変異クローンの拡大機序を提唱し、さらに主死因の造血障害の発症トリガー分子の候補としてNKG2Dリガンドを同定しています。造血障害の早期診断、治療の判断への臨床応用を試みると共に、NKG2Dとそのリガンドの作用の調節法を突き止め、移植、癌、自己免疫疾患における画期的な治療法の確立をめざしています。また、病因や前白血病状態の追究も課題です。一部は最新血液内科シリーズ Vol 10、私と仲間たち、Vision、(監修 高久史麿)に紹介しています。

図1

園木孝志

 リンパ球系腫瘍発生の分子基盤

 造血器腫瘍にみられる染色体転座は疾患単位と密接に関連しており,診断と治療に重要な情報を与えてくれます.たとえば,慢性骨髄性白血病のt(9:22)(p13;q22)は確定診断に必須であり,その後の治療モニターとしても有用です。この転座によって生じるチロシンキナーゼ活性亢進を特異的に阻害する薬剤が開発され,慢性骨髄性白血病の治療を一変させました。
 私は免疫グロブリン重鎖遺伝子の染色体転座を微量な試料から簡便かつ迅速に遺伝子単離する方法を確立し,いくつかの新しい染色体転座を明らかにすることができました。中でも,免疫グロブリン重鎖遺伝子とサイクリンD3遺伝子との転座を示す悪性リンパ腫の一群を見出しており,サイクリンD3異常によるリンパ腫発生の機序を明らかにしたいと考えています。その他,急性リンパ性白血病の発生にmicroRNAが関わっている可能性を示唆する症例を見出しました。microRNAは新しい生理活性物質として注目をあびており,microRNA発現異常がどのようにして造血器腫瘍発生に寄与しているのか明らかにしたいと考えております。

 今後も,臨床で生じた疑問を研究で解決し,研究の成果を臨床に還元させていくようなスタイルをとっていきたいと考えております。私たち血液内科医には,造血器腫瘍の研究がガン研究に重要なインパクトを常に与え続けてきたという自負があります。若い情熱を持った方が造血器腫瘍の研究を出発点として「ガンの撲滅」といった大きな目標をかなえていただきたいと思っております。

図2

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