和歌山県立医科大学 血液内科

日々雑感

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今回は,2007年9月6日 園木 孝志先生 寄稿分です

「時に癒し、しばしば支え、つねに慰む」

 私が医学部学生のころ、医療社会学という講義があった。講義用のテキストに選ばれた本の1つに砂原茂一著「医者と患者と病院と」(岩波新書)がある。もともと他人から指図されるといやな性質なので、講義のときにはしっかりと読まず、おざなりのレポートを提出して単位をもらった。卒業後、研修医のときにふとしたきっかけでもう一度読み直したが、そのときに深く感銘をうけたことを思い出す。

 この本の終章に表題の言葉(「時に癒し、しばしば支え、つねに慰む」)が引用されている。19世紀後半のアメリカで結核療養所を開いたエドワード・リビングストン・トルドー医師(1848生−1915没)の銅像にフランス語で彫りこまれているという。「Guérir quelquefois, Soulanger souvent, Consoler toujours」という美しい響きの言葉である。トルドー医師に世話になった結核療養所の患者たちが彼への感謝の気持ちとして銅像とこの言葉を捧げたそうである。砂原茂一氏は患者たちの感謝の気持ちをこう推察している―“トルドーの時代の結核は不治の病でした。医学の力だけでは治し切ることができなくても、治ることを直接・間接に援助し、またせきや熱や食欲不振などの不快な症状をおさえる試みをしてくれたし、それすらできない場合でもいつも患者を慰め勇気づけてくれたトルドーという医者は本当にいい医者であった、お礼がいいたい―”。

 私は1年に60人ちかくの方が亡くなるといった病棟で研修医時代を過ごした。まさしく不治の病が跋扈する病棟であった。その時期にこの言葉と再会し、やれどもやれども悪化していく患者さんたちと最期まで付き合っていこうと心した。刀折れ矢尽きようとも診察だけはできると思い、ラウンドを心がけた(ときにはただ黙ってベッドサイドに立ちすくむこともあったが)。この初期研修の経験はその後の私のキャリアに良かれ悪しかれ大きく影響している。

 幸い「医者と患者と病院と」は版を重ねているらしく、私の手元には2003年に発行された第33刷があります。学生諸君、研修医、医療関係者の方、それから一般の方も是非手にとって読んでみてください。

 園木 孝志


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