血液内科学講座

当教室では血液内科診療の現場の問題を掘り起こし、それを課題として研究し、解決して医学の発展に寄与する共に、その成果を診療現場へ還元して医療の質の向上を図ることをモットーとしています。
そこで、診療機会が多く難問を抱える血液癌や造血障害などが主な研究対象です。

例えば、発作性夜間血色素尿症(PNH)、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの特発性造血障害と前白血病状態を特徴とする骨髄不全症候群、また白血病、リンパ腫、骨髄腫などの血液癌の病態解析、さらに治療法、例えば造血幹細胞移植による造血再生や同種免疫療法、分子標的療法、新たな先進医療の開発が課題です。加えて、HIV感染症や輸血療法も関連課題として重視しています。

主な研究内容

  1. 骨髄不全症候群の分子病態
    我々は造血障害と白血病化を特徴とする骨髄不全症候群、中でも特に、発作性夜間血色素尿症(PNH)の分子病態を追究しています。これまで主病態の溶血の全容解明に寄与し、また発症をもたらす変異クローンの拡大機序を提唱し、さらに主死因の造血障害の発症トリガー分子の候補としてNKG2Dリガンドを同定しています。造血障害の早期診断、治療の判断への臨床応用を試みると共に、NKG2Dとそのリガンドの作用の調節法を突き止め、移植、癌、自己免疫疾患における画期的な治療法の確立をめざしています。また、病因や前白血病状態の追究も課題です。
  2. リンパ球系腫瘍発生の分子基盤
    造血器腫瘍にみられる染色体転座は疾患単位と密接に関連しており、診断と治療に重要な情報を与えてくれます。たとえば、慢性骨髄性白血病のt(9:22)(p13;q22)は確定診断に必須であり、その後の治療モニターとしても有用です。この転座によって生じるチロシンキナーゼ活性亢進を特異的に阻害する薬剤が開発され、慢性骨髄性白血病の治療を一変させました。我々は免疫グロブリン重鎖遺伝子の染色体転座を微量な試料から簡便かつ迅速に遺伝子単離する方法を確立し、いくつかの新しい染色体転座を明らかにすることができました。中でも、免疫グロブリン重鎖遺伝子とサイクリンD3遺伝子との転座を示す悪性リンパ腫の一群を見出しており、サイクリンD3異常によるリンパ腫発生の機序を明らかにしたいと考えています。その他、急性リンパ性白血病の発生にicroRNAが関わっている可能性を示唆する症例を見出しました。microRNAは新しい生理活性物質として注目をあびており、microRNA発現異常がどのようにして造血器腫瘍発生に寄与しているのか明らかにしたいと考えております。私たち血液内科医には、造血器腫瘍の研究がガン研究に重要なインパクトを常に与え続けてきたという自負があります。若い情熱を持った方が造血器腫瘍の研究を出発点として「ガンの撲滅」といった大きな目標をかなえていただきたいと思っております。
  3. 白血病の成因と造血幹細胞
    我々はこれまで造血幹細胞の試験管内増幅を目指して、造血幹細胞cDNAライブラリーをスクリーニングし新規のチロシンキナーゼ型受容体であるヒトEphB6を単離しました。その後、同受容体に関してリガンドの同定、抗体の作製、遺伝子欠損マウスの作製などを行ってきました。
    生体内での幹細胞の維持、複製、増幅にはニッチといわれる居場所が必要で、このニッチとの相互作用が幹細胞の運命を決めていると考えられています。我々が単離したキナーゼ受容体や接着因子はこの相互作用に重要であると考えています。また、白血病にも病的幹細胞があり、これによって白血病再発が起こると示唆されています。そこで我々は白血病幹細胞と正常幹細胞の生物学的特性の相違や、幹細胞とニッチ間の相互作用に注目して研究を行い、白血病の分子病態の解明や新規治療法の開発を目標としています。
  4. 血管新生抑制による造血器・固形腫瘍の治療開発
    白血病・多発性骨髄腫等の造血器悪性腫瘍が骨髄内で増殖するには、周囲の骨髄微小環境が強く影響します。特に血管新生は様々な造血器腫瘍で関与が知られており、悪性リンパ腫にも強く血管新生が病態に影響しているものがあります。血管や微小環境に対する治療は抗癌剤による耐性出現という問題を解決する一つの治療法になり、様々な種類の悪性腫瘍の治療に応用できるものでもあります。我々は造血器腫瘍と血管新生の病態解明と、血管新生抑制による治療開発をめざしています。

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