診療方針

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精巣腫瘍

精巣に発生する腫瘍の大部分は悪性腫瘍であり、日本では10万人当たり1~2人に発生する比較的稀な腫瘍で、主に20~30歳代の男性に多くみられます。腫瘍の発生率が高くなる因子として家族歴、停留精巣があります。
主な症状は精巣(陰嚢)の腫れや硬結(固くなる)で、痛みを伴わない場合がほとんどです。また、進行性の場合には転移部位による様々な症状がみられることがあります。

精巣腫瘍には大きく分けてセミノーマ(精上皮腫)と非セミノーマの2種類の組織型があります。セミノーマは精巣腫瘍の50%近くを占める最も多い組織型で、放射線治療の感受性が高い腫瘍です。非セミノーマには胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫などの様々な組織型があり、これらが混在していることもあり、セミノーマに比べ転移を起こしやすい性質があります。また、セミノーマとその他の組織型が混在している場合も非セミノーマとして取り扱います。

診断方法

精巣の触診や超音波検査で腫瘍を確認します。転移を検索するためにCT検査を行います。
さらに血液検査で下記の腫瘍マーカーを測定します。

  • α-胎児性タンパク(AFP:非セミノーマの約50~70%で高値
  • ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG:セミノーマの10~20%で高値
  • 乳酸脱水素酵素(LDH:精巣腫瘍の50%で高値

組織型を診断するために、腫瘍がある精巣を手術で摘出します。腫瘍マーカーの値と摘出した精巣の病理学的検査で組織診断を確定します。

病期分類

日本泌尿器科学会病期分類

Ⅰ期: 腫瘍が精巣、精巣上体、精索に限局し、転移がない
Ⅱ期: 横隔膜より下のリンパ節に転移がある
ⅡA-リンパ節転移巣が5cm未満
ⅡB-リンパ節転移巣が5cm以上
Ⅲ期: 横隔膜より下のリンパ節以外に転移がある
Ⅲ0-転移部位は確認できないが腫瘍マーカーが陽性
ⅢA-縦隔、鎖骨上リンパ節に転移あり
ⅢB-肺転移あり
ⅢC-肺以外の臓器に転移あり

治療方法

摘出した精巣の組織型と種々の検査による病期分類に応じて、治療法を決定します。

セミノーマ

Ⅰ期:
経過観察では15~20%に再発がみられます。腹部大動脈周囲のリンパ節への放射線予防照射を行った場合では再発率は5%以下になります。
ⅡA期:
化学療法または放射線療法を行います。
化学療法ではブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンという3種類の抗癌剤を使用し(BEP療法)、3コース施行します。放射線療法では、転移巣および大動脈周囲や骨盤内のリンパ節に放射線を照射します。
ⅡB期:
化学療法としてBEP療法を3~4コース施行します。
Ⅲ期:
化学療法としてBEP療法を3~4コース施行します。

セミノーマはPET検査の有用性が高いため、ⅡA期以上の症例に対して治療後にPET検査を施行します。PET検査が陰性であっても、残存している腫瘍が大きい場合には、手術で摘出し組織診断を行う必要があります。

非セミノーマ

Ⅰ期:
経過観察では30%に再発がみられます。放射線の感受性は低いため、組織診断結果によっては、予防的治療としては抗癌剤による化学療法を行う場合があります。
ⅡA期:
精巣摘除後に腫瘍マーカーが正常化し、転移巣の大きさが2cm未満であれば、手術(後腹膜リンパ節郭清術)または経過観察を行います。
腫瘍マーカーが高値または転移巣の大きさが2cm以上では、化学療法としてBEP療法を3~4コース施行します。
ⅡB期:
化学療法としてBEP療法を3~4コース施行します。
Ⅲ期:
化学療法としてBEP療法を3~4コース施行します。

非セミノーマⅡA期以上の症例では、治療後に腫瘍マーカーが正常化しない場合は、抗癌剤の種類を変更した化学療法を追加します。腫瘍マーカーが正常化し残存している腫瘍が大きい場合には、手術で摘出し組織診断を行う必要があります。摘出した組織の診断によっては、化学療法を追加する場合があります。

精巣腫瘍は抗癌剤や放射線治療が非常に有効であり、転移がある場合でも根治が望める数少ない癌のひとつです。
そのためにはできるだけ早い段階で、適切な診断と治療を行う必要があります。しかし実際には、精巣という部位のためになかなか医療機関を受診できず、診断時には進行した状態であることが時折みられます。

精巣に関して何らかの異常を感じる場合には、なるべく早く泌尿器科を受診するようにしてください。