教授ご挨拶

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写真:教授 原 勲 (はら いさお)

泌尿器科とは尿を作って体外に排出するまでの一連の臓器(腎、尿管、膀胱、尿道)および男性の生殖器(精巣、精嚢、前立腺)に関する疾患を扱う診療科です。泌尿器科の進歩は著しく、私が泌尿器科医になった30年前には想像もつかなかったような治療が今日ではごく一般の臨床として行われています。

泌尿器科は外科系の診療科になりますが手術における低侵襲化はその代表的なものです。かつては経尿道的な手術以外のほとんどは開腹手術で行われていましたが、今日では多くの代表的な手術が腹腔鏡下で行われています。さらに腹腔鏡下手術の進歩したものがロボット支援手術です。これは術者が立体視野のもと自分の手の動きを患者さんの体内で忠実に再現してくれる医療用ロボットを用いる手術です。日本国内では2012年から保険診療で認められるようになり、現在では前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術、小径腎細胞癌に対する腎部分切除術、筋層浸潤性膀胱癌に対する膀胱全摘除術および腎盂尿管移行部狭窄に対する腎盂形成術が保険収載術式として認められています。拡大された立体視野で行う手術はまるで術者自身が患者の体内に入って手術を行っているような感覚にさせてくれます。

泌尿器科の代表的な疾患として尿路結石がありますが、かつては開腹手術が主な治療手段でした。体に傷をつけることなく体外から衝撃波を用いて結石を破砕する体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は1984年に本邦に導入されました。さらに経尿道的尿管結石破砕術(TUL)や経皮的腎結石破砕術(PNL)の進歩に伴い今日では尿路結石に対して開腹手術を行うことはほぼなくなったと言っても過言ではありません。

このような外科的治療の進歩のみならず薬物治療においても革新的な新薬が次々に産み出されています。勃起障害に対するバイアグラの登場は治療のみならず診断体系をも変化させました。また従来の抗がん剤ではほとんど効果が認められなかった癌に対しても分子標的薬や免疫製剤が次々に開発されています。さらに排尿障害に対する新薬や腎移植の際に用いられる免疫抑制剤も長足の進歩を遂げています。

われわれ和歌山県立医科大学附属病院で勤務する医師にとって一番重要な責務はこうした最新で良質な医療を県民の皆様に安全に提供することです。泌尿器科スタッフは全員一丸となって目標を達成すべく日夜診療に励んでいます。

大学病院のもう一つの大きな責務は次世代を担う泌尿器科医の育成です。和歌山県下の主な病院の泌尿器科医はほぼ和歌山県立医科大学出身の医師で占められています。大学病院だけが高度な医療を提供するのではなく地域におられても良質な医療を受けることができるよう優秀な泌尿器科医を育成するのも大学の大事な役割です。ここ数年は泌尿器科を志す若い先生が和歌山県立医科大学に集まってくれています。泌尿器科に興味がある研修医の先生の参入を心から待っています。