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研修会報告

平成25年度第一回和歌山県認知症疾患医療センター研修会

平成25年8月31日に平成25年度第一回和歌山県認知症疾患医療センター研修会が開催されました。台風15号が近づいており、開催が危ぶまれましたが、風が強かったぐらいで雨もさほど降らず、約300人もの方々に参加していただくことができました。ご参加いただいた方々にはこの場を借りて御礼を申し上げます。当初想定しておりました参加人数を大幅に上回ったため、急遽会場を講堂に変更いたしましたが、音声の具合が悪く、参加者の方々は聞きづらかったかと思います。大変申し訳ありませんでした。

今回の研修会には、東京大学大学院人文社会系研究科、死生学・応用倫理センター、上廣講座特任准教授の会田薫子(あいた かおるこ)先生をお迎えしました。会田先生のご講演の題は「認知症の終末期医療とケア ~胃ろうで生きるということを考える~」。医療技術の進歩によって出現した胃ろうという方法を、認知症の終末期の方にするべきかどうかについて、たいへん詳しくお話いただきました。冒頭の人工的水分・栄養補給法 (AHN)の定義にはじまって、終末期医療の歴史、PEGの適応、外国における認知症患者に対するAHNの考え方などのお話によって、参加者は胃ろうなどの人工的水分・栄養補給法に関する基本的な知識を得、あるいは整理することができたと思います。また米国老年医学会が、最終段階で小さな氷のかけらを与えるのが良い、と提言しているお話は、今日からでも取り入れることのできる方法で、多くの参加者が頷いておられましたのが印象的でした。

後半は倫理的なお話と、法律的なお話をいただきました。東京大学の清水哲郎教授の「人は人生を物語りとして把握している」という言葉、あるいは故河合隼雄先生の「生きるとは、自分の物語をつくること」という言葉を引き合いに、物語(ナラティブ)としての人生のとらえ方について説明いただきました。生命というのは、科学的なデータで説明される生物学的な生命と、物語として、人々との関わりで形成される物語られるいのちがあるという「生命の二重性」理論は、とかく数値のみで患者さんをとらえようとしてしまう医者には耳の痛い話でした。

「高齢者ケアの意志決定プロセスに関するガイドライン」は会田先生も作成に参加されておられますが、このガイドラインに、法律家の方々が実名を出すかたちで多数賛同されたということですが、このガイドラインが実務的にも法的にもいかに適切であるかを示しているかと思います。

お話を通じて、われわれ人間は、多くの固定化した観念や思い込みに縛られているものだ、と感じました。思い込みや他人のやっていることに流されることなく、「正しいこと」を証明し、適切で常識的な形で社会に受け入れてもらい、そして社会を動かしていくプロセスの大切さを会田先生には教えていただいたように思います。お話が終わったあと、私の頭の中では価値観のある部分が、別のさらに洗練されたものに入れ替えられたような感覚がありました。いわばコンピューターのOSがバージョンアップされたような気分でした。

残念ながら会田先生のご講演が聴けなかった方々は、当日のスライド資料や「高齢者ケアの意志決定プロセスに関するガイドライン」、あるいは会田先生のご著書を参考にしていただければと思います。医療関係者の方々は会田先生の「延命医療と臨床現場―人工呼吸器と胃ろうの医療倫理学」や日本老年医学会の「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として」を是非お読みください。一般の方々には、「本人・家族のための意思決定プロセスノート 高齢者ケアと人工栄養を考える」が大変参考になると思います。

会田先生 スライド資料「認知症の終末期医療とケア ~胃ろうで生きるということを考える~

(文責 廣西昌也)

日本老年医学会編.高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として.医学と看護社,東京,2012

清水哲郎,会田薫子.本人・家族のための意思決定プロセスノート 高齢者ケアと人工栄養を考える.医学と看護社,東京,2013

会田薫子.延命医療と臨床現場―人工呼吸器と胃ろうの医療倫理学.東京大学出版会,東京,2011

 

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