ここから本文です

認知症のお薬について

「認知症と薬の関係」

 認知症は脳の神経細胞が徐々に脱落することによって、脳の処理機能が低下する病気ですが、神経細胞を再生させたり、神経細胞が死ぬのを防ぐ薬はまだ見つかっておらず、今後の研究の進展が待たれるところです。では認知症患者さんに薬を出すのはどうしてでしょうか?
 まず、認知症患者さんの脳全体の活動が低下する場合は元気がなくなったり、意欲・やる気がなくなってしまいます。このような場合には、脳を活性化する薬によって少し気力が回復する可能性があります。また脳の神経細胞の働きのバランスが崩れると、すぐ怒ったりイライラしたりするような症状になる場合もありますが、このようなケースでは脳の活動を穏やかにしたり、神経活動のバランスを調節する薬が使われます。
 実際の患者さんでは、意欲の低下とイライラが混在したりしますので、認知症の薬は数種類の薬を調節しながら飲んでいただきます。

「認知症にはどんな薬を使いますか?」

現在、アルツハイマー病に使う薬が4種類、レヴィー小体型認知症に使う薬が1種類認可されており、多くの認知症患者さんが服用されています。

「薬はどのくらい効きますか?」

残念ながら現在使用されている薬には、根本的に認知症の進行を止める働きはなく、飲んでいても最終的には認知症は進行します。また記憶障害や行動障害を劇的に改善させるほどの効果も期待できません。しかし脳で生き残っている神経細胞を活性化させ、覚えたり考えたりする働きをある程度保つ可能性があります。また、日常生活に活気が出たり、イライラや不安を少なくすることによって生活の質を上げる効果も期待できます。

「副作用が怖いのですが」

基本的に認知症の薬にはひどい副作用は少ないと考えていただいて構いません。たまたま体質が合わないこともありますが、ごく少数です。ただ飲み始めに吐き気などの消化器症状が生じたり、稀に徐脈(脈が遅くなること)が生じることがあります。その他にも精神症状などの副作用も出ることがありますが、中止により元に戻りますので過度の心配は不要です。不必要な副作用を避けるため、薬は徐々に増やします。万が一副作用が出た場合は別の薬に変更したりすることがあります。

「薬は必ず飲まないといけませんか?またずっと飲まないといけないのですか?」

認知症の薬は必ず飲まないといけないものではありませんし、ご本人やご家族の考え方によっては飲まないという選択枝もありえます。ただ著しい効果がある薬ではないものの、ある程度の効果は証明されていますので、副作用などの問題がなければお飲みになることをお勧めします。また、病気が進行し、寝たきり状態になってご本人の反応が乏しくなったような状態では薬を飲む必要はありません。

「インターネットなどで健康食品が認知症に効くような宣伝をしているものがありますが」

認知症に対して医学的に効果があると証明されているのは、現在アリセプト®、レミニール®、イクセロンパッチ®とリバスタッチ®のみです。それ以外にも効果がある薬がある可能性はありますが、効果や安全性がはっきりしない薬を積極的にお勧めするのは難しいところです。薬が効かない場合はお金がもったいないだけですが、思ってもみないような副作用がでた場合が心配です。医師が処方する以外の薬や健康食品に関しては自己責任でお願いするしかないのが現状です。

「それぞれの薬について教えて下さい」

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アルツハイマー病やレヴィー小体型認知症の患者さんの脳では、アセチルコリンという神経伝達物質が減少しています。神経伝達物質とは神経と神経の情報のバトンタッチに必要な物質で、減少すると脳のネットワークがうまく働かなくなってしまいます。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はアセチルコリンが分解されないように働き、脳の中でアセチルコリンが減るのを防ぎます。現在認可されているのは、アリセプト®、レミニール®、イクセロンパッチ®とリバスタッチ®(イクセロンパッチ®とリバスタッチ®は会社が違うだけで同じ薬です)の3種類です。薬の効果は大きく変わりませんが、ある薬剤が合わなかったり、効果が乏しい場合に他の薬剤に変更するとうまくいくことがあります。これらは脳を元気にしてくれる薬ですが、空回りしてしまうとイライラや攻撃性、焦燥感などが出ることがあり、その場合は減量もしくは中止したりします。メマリー®や漢方の抑肝散を併用することで薬を続けられることもあります。また脈が過度に遅くなることがあるので、もともと脈が遅い方や心臓の病気がある方には注意が必要です。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は3種類ありますが、2種類を一緒に飲むことはできません。たとえばアリセプトとレミニールの併用はできないことになっています。

アリセプト®

平成11年に発売され、認知症の薬としては最も古くから使われています。3mgと5mg、10mgの製剤がありますが、3mgは“慣らし”のための錠剤で、通常は5mg、重症の場合は10mgに増量します。副作用が強くでる場合は3mgのままで処方する場合もあります。水がなくても口の中で溶ける口腔内崩壊錠、細粒やドライシロップ剤、ゼリー剤などもあり、ご本人が服薬を嫌がる場合でもうまく飲んでもらえる場合があります。服用は1日1回で、基本的に朝でも夜でもかまいません。アルツハイマー病の治療や薬として使われてきましたが、平成26年からはレヴィー小体型認知症の治療薬としても認可されています。現在レヴィー小体型認知症の薬として認められているのはアリセプト®のみです。

レミニール®

平成23年に発売され、アルツハイマー病の治療薬として使用されています。普通の錠剤のほか、口腔内崩壊錠、内用液があります。錠剤と口腔内崩壊錠は4mg、8mg、12mgがあり、内用液は1mL (4mg)、2mL (8mg)、3mL (12mg)があります。朝と夜に1日2回飲む薬で、4mgを2回飲む量からはじめ、最大で12mgを1日2回(1日量 24mg)まで増量できます。

イクセロンパッチ®・リバスタッチ®

この2つは会社が違うだけで同じ薬です。レミニール®と同じく、平成23年から販売されています。適応はアルツハイマー病です。他の薬剤と違って、貼付剤(貼り薬)であることが特徴です。薬を飲むことを嫌がる方でも、貼り薬だとうまくいく場合があります。またアリセプト®やレミニール®が吐き気のために飲めない場合でもイクセロンパッチ®、リバスタッチ®を使うと継続できることがあります。4.5mg、9mg、13.5mg、18mgのものがあり、徐々に増量していきます。貼り薬のため、かぶれる人がありますが、貼る場所を変更したり、ステロイドのローションを少量塗っておくことで貼付を続けられる場合があります。

NMDA受容体拮抗薬

メマリー®

レミニール®などと同じく、平成23年から使われているアルツハイマー病の薬です。現在のところメマリー®という薬のみがこのNMDA受容体拮抗薬として発売されています。NMDA受容体というのは、グルタミン酸という神経伝達物質の受け皿ですが、アルツハイマー病では脳の中でグルタミン酸の働きが乱れ、神経細胞が障害されたり神経の情報が障害されたりします。メマリー®はグルタミンの働きを抑えることにより、神経伝達を整えたり、神経細胞を保護する可能性があります。
メマリーのよいところは、患者さんのイライラした感情を抑え、気持ちをおだやかにしてくれる働きがあることです。患者さんの感情が安定すると、介護する方にも余裕が生まれ、意思疎通が良好となり、認知機能の改善も期待されます。
ただおだやかになりすぎても、逆に活気がなくなったりすることもあり、その場合は減量や中止が必要になります。また腎臓が悪い方は薬が身体から抜けにくいため、はじめから減量して使用します。

「お薬を飲んでいれば大丈夫でしょうか?」

認知症は治療よりも療養が大切な病気です。お薬はあくまで補助だと考え、生活環境やコミュニケーションを調整することが第一です。ご本人が困っていることを具体的にリストアップして、それぞれの問題点に対してサポートできることをご家族や介護スタッフと一緒に考えましょう。ご本人の負担を軽くし、不安を少なくするだけで気力やコミュニケーションの改善がみられることも多いのです。失敗はできるだけ指摘せず、さりげなくサポートしましょう。ご本人のプライドや価値観を尊重し、笑顔で接するだけで症状は良くなります。

「計算ドリルや脳トレはやった方がいいのですか?」

計算ドリルや脳トレで一時的に認知機能が改善することはあります。しかし本人がやりたくないものを強制するのはよくありません。認知症の患者さんはいつも「できない」ことに傷ついているものです。良かれと思ってやったことでも、計算ドリルなどで失敗することに余計に焦ったり卑屈になったりしてしまうかもしれません。ただやることを本人が楽しんでいるようであれば大いにやってもらって結構です。また本人が嫌がらなければ日記をつけてもらうのも良いでしょう。大切なのは本人が楽しいと思えることをやってもらうことです。

このページのトップに戻る