取組責任者 挨拶

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畑埜教授

  医療は「治療」と「ケア」から成り立っている。しかし、今までの日本の医療は「治療」することに価値があり、医療・医学教育は「治療」中心に行われてきた。医療者もそれを当たり前のように考え、患者は「治療されること」が「医療」であると信じてきた。当然、医師は治療のため医療者を統括し、一方向性の指示と命令によって医療組織を動かし、パターナリズムが形成されてきた。これが現在ではチーム医療の弊害となってきた。
   医療サービスの3大要素として、「安全」、「安心」そして「満足」がある。疾患が治癒される患者だけでなく、疾患が治癒されない患者に対しても「満足」を提供する医療でなくてはならない。そして、医療はそれに必要な知識と技術・技能を除けばすべて患者・家族と医療者間の「チームコミュニケーション」により成り立っている。その根底にあるのが「ケアマインド」と言えるのではないか。
   医学部教育では「医学知識と技術」の他に、「人間性の涵養」を掲げながらも、その教育はほとんど行われてこなかった。現在の社会のニーズに医学教育が応えていない。この疑問から、「ケアマインド」を如何に教育するかを考えたとき、まず、疾患が治療できない患者に対して何ができるか?を考え、学ぶことが重要である。1990年、大学が統合移転した時、国公立大学の附属病院で初めて「緩和ケア病棟」が、教育目的をもって設立された。「ケアマインド」を習得する効果的な方法としては、「緩和ケア」を学生時に経験させることである。患者に対するケアと患者との会話から、患者の感性を実体験し、医療者として何ができるかを考え、学ぶのである。また、もう一つの方法としては、「医療問題ロールプレイ」があり、同様に総合移転した時、麻酔科の最終講義に導入した。これは単なる診察法のロールプレイではない。ある緩和ケアに関する研究会で、医師が患者役、ナースが医師役でロールプレイを演じていた。相手の感性を理解するには最も効果的な方法であると感じ、学生教育に採り入れることにしたのである。
   このようにして学生たちが習得した「ケアマインド」が、医師になってからも温存され、「治療」と「ケア」のバランスの取れた、患者満足をもたらす真のチーム医療の形成に貢献することを願っている。

麻酔科学教室 教授 畑埜 義雄