令和5年度卒業式 式辞

 穏やかな日差しに春の訪れを感じる早春の良き日に、卒業を迎えられる医学部、保健看護学部、助産学専攻科の皆さん、医学研究科修士課程、博士課程および保健看護学前期博士課程、後期博士課程を卒業、修了される皆さん、誠におめでとうございます。心よりお祝いを申し上げます。また、卒業生を今日まで育てられてこられたご両親をはじめ、ご家族の方々にも、心よりお慶びを申し上げます。
 また、本日の卒業式を挙行するにあたり、和歌山県知事岸本周平さまをはじめとして多くのご来賓にご臨席を賜り心より御礼を申し上げます。

 皆さんの学生生活は、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行のため、この4年間、多くの制約の中での生活を余儀なくされました。特に、保健看護学部を卒業される皆さんは、令和2年4月の入学生であり、まさにコロナパンデミックの勃発と重なり、入学式は取りやめとなりました。開学70余年の歴史の中で苦渋の決断でございました。対面講義ができなくなり、遠隔講義への転換や、実習内容の変更、期間の短縮などを余儀なくされました。また、クラブ活動も自粛、クラスメート、後輩とのコミュニケーションも充分に取れない日々が続きました。大学といたしましても、新型コロナ感染症対策本部会議を立ち上げ、全学をあげて、流行の動向に対応して教育環境の維持に全力を尽くして参りました。昨年5月から、新型コロナ感染症が五類感染症となり、流行はまだ続いておりますが、一応の落ち着きを迎えております。本日、卒業式・修了式を無事に迎えることができますことを安堵しております。困難な環境の中で、学生諸君が各自行動を自粛しながら勉学に励まれ、今日の卒業式を迎えられたことに敬意を表し、心よりお祝いを申し上げます。
 さて、卒業される皆さんに餞(はなむけ)として、3つのことを申し上げたいと思います。

 一つは、医学・医療の道は、果てしなく長く、深く、それ故、生涯が学びの道であることです。
 卒業式を迎えられた皆さんは、それぞれの学部、課程を修了され、学生生活は本日をもって終了し、明日からは社会人として新たな一歩を歩み始めることになります。それと同時に皆様方は、「医学、医療」のプロとしての長い道程のまさに入口に立ったことになります。すなわち本日の卒業は、一つの節目ではありますが、一つの通過点、プロとしての学びの原点に立ったところといえるでしょう。これからの生涯にわたる学びを通じて、自らが成長し続けることができる職業、そして社会に貢献し続けられる職業であるとの自覚と誇りを持って、明日からの一歩を進めていただきたい。

 第二に、医療の道を究めることは、人としての道を究めるということです。
 よく病を診るのではなく、病む人を診ることが大事であると言われます。患者さん目線で、患者さんによく説明し、納得のいく、安全で安心な医療を提供することが大事であります。医療人の求められる力量として、正確な知識と確かな技術を修得し、安全で確実な医療を提供することでありますが、一方で、患者さん一人ひとりを理解し、共感し、支援することができる資質が求められます。
本学の教育目標に、「高い倫理観と高邁な人間性」を涵養することが謳われておりますが、
医療に求められる高い倫理観を涵養するためには、皆さん一人ひとりの人間性を高めていく努力が必要です。人としての道を究める、このことをどうか心の奥に秘めながら医療人として成長していってほしいと思います。

 第三に、地域にあって世界を目指すということです。 
 私は、本学の運営の基本的なスタンスとして「地域とともに世界に羽ばたく大学」を掲げてきました。本学は、和歌山という地域にしっかりと根を下ろし、県民医療の充実にまい進する、と同時に、そこで展開される教育、研究、診療は世界に発信できるレベルを目指すという姿勢です。令和3年4月には、薬学部が開設され文字通り医療系総合大学として新たなスタートを切りました。本年4月からは、大学院の改組が行われ、医学研究科と薬学研究科とを統合した医学・薬学研究科がスタートします。さらに、基礎医学研究、臨床医学研究に加え、第三の研究の柱というべき医療データサイエンス研究を推進するための、データサイエンスセンターが三学部共同の全学施設としてオープンします。今、まさに、本学を巣立つみなさんは、広く豊かな「世界的視野」を常に持って、「和歌山の地から世界に最新の医療を発信する」という大いなる気持ちをもって、それぞれが置かれた立場で、前進していただきたい。

 皆さんは、本学に入学され医学部では6年間、保健看護学部では4年間、級友とともに学生生活を送ってこられました。この間の勉学、クラブ活動等を通じて育まれた友情、人間関係は、非常に大切な宝であり、医学医療に従事する私たちにとっては生涯にわたってかけがえのない存在になります。これからのみなさんの活躍の場が、研究の場、臨床の場であれ、また、県内、県外であれ、和歌山医大で学んだ同級生、先輩後輩の同窓生が、みなさんの医療人としての成長を支えてくれる、欠かせない存在となります。母校和歌山医大を愛すること、県内はもちろん、県外にでても、和歌山のことを思い愛し続けてほしいと思います。皆さんの若い力で和歌山の医療の発展、和歌山医大の発展、ひいては世界の医療の発展に貢献していただきたいと思います。

 皆さんのこれから歩む世界は決して平坦なものではありません。地震、豪雨等の重大災害の多発、気候変動などの環境問題、国際紛争、人口爆発人口減少などの人口問題、また、医療分野に目をやれば、国際感染症、少子高齢・過疎社会の医療、AIホスピタルへの進化、さらに医師の働き方改革など大きな問題が横たわっています。皆さんがこれまでに培って来たであろう柔軟な対応力、あらゆることに前向きに向き合う不断のチャレンジ精神、これらをさらに磨き当面する諸課題に果敢に取り組んでいって頂きたい。

 これからの皆様の人生が、大いなる夢のもと充実した医療人としての人生を過ごされることを心より祈念申し上げ、式辞といたします。 

 

令和六年三月十九日
和歌山県立医科大学
学長 宮下 和久

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