早期体験実習
目的
入学後の早期に和歌山県の山間部に全員で行き2泊3日の体験実習を行っている。地域の保健師さんの協力を得て、地域で生活している人々の家庭訪問を行い、学生主催の交流会を実施し、直接住民の方々と関わりを持つ体験を中心にしている。学生が体験からそれぞれ関心を持った事柄などを発表し合い、意見交換をしていくなかで、本学部で学ぶ意味や今後の学習の動機づけを深めることも目指している実習である。
目的として掲げていることは、「地域で生活している人々との関わりを通して、くらしと環境について理解し、健康との関連について学ぶ」である。
目標として
(1)地域で生活している人々を訪問し、地域に密着した生活のありようを知る。
(2)人々のくらしから健康をまもる生活の実態を知る。
(3)人々のくらしが、医療・保健・福祉の連携によって守られていることを知る。
(4)体験を通して、保健看護への興味・関心が深まる。
実習方法

(1)実習時期:4月の第4週
(2)実習場所:かつらぎ町花園、かつらぎ町新城
(3)実習スケジュール
第1日目 月曜日 |
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第2日目 火曜日 |
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第3日目 水曜日 |
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第4日目 月曜日 |
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第5日目 金曜日 |
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概要

実習場所であるかつらぎ町花園と新城は、県北部に位置し、高野山の麓にある自然豊かな山深い地域である。この地域の5カ所の地区集会所を起点として住民の家庭を訪問し、また住民を誘い集会所で交流会を催している。
実習1日目は学内で、地区別に分かれグループ毎に家庭訪問や交流会の計画などの準備を行っている。学生の自主性を尊重しながらも、教員は住民の特徴を考慮する必要性などを説明する役割を担っている。
実習2日目は、学生教員がバス2台に分かれ、宿泊場所である花園地区にあるふれあいセンターに移動する。バスの中でも学生間の交流は盛んに行われている。
午後には、弓庭保健師さんよりかつらぎ町花園の概要と保健活動の講義を聴く。「世帯数の減少は僅かであるが、人口の減少は顕著で、花園地域では平成2年は652人であったが人口が平成20年は497名であり、65歳以上の人口は45.9%である。14歳以下は17名(3.4%)で、平成17年と平成20年の出生数は0である。地域内に診療所はなく、過疎高齢者生活福祉センターが平成3年に完成。日常品や食料品の買い物は業者が車で各住居の近くで巡回販売しているものを購入することも多い等」の説明を受け、学生の家庭訪問が開始される。学生の戸惑いや不安は大きいようであるが、住民からの「今年も来たんかい、待っとたんよ」という声かけに誘導され、会話が始まっていく。
実習3日目は、午後より各集会所に出かけ、昨日住民に案内しておいた交流会を実施する。「何人参加してくれるのか」という学生の不安をよそに集会所に来てくれる人々を迎える学生の歓迎する気持ちが住民との交流を和やかなものにしている。参加者の「細かな作業は苦手なので・・」「立ち座りがつらいので・・」「耳が遠いので・・」等の言葉に対して、心配りができる学生と交流会を計画通りに進めようとする学生といろいろである。見かねた教員がアドバイスをすることもたびたびである。
宿泊場所に戻り、学生間の感想や意見交換の中に教員も参加する。学生たちの多くは、自分たちの今までの生活とは全く違う環境で暮らしている人々と話をする中で、会話する楽しさや難しさ・これからの自分について・保健や医療の役割などを実体験から気づき始めている。
実習4日目は、各地区に学生が分かれ昨日の交流会の感想等を聞きながら、家庭訪問を行う。昼食を持参し、各地区の集会所で食事をし、住民の方との交流時間を効率よく行うよう計画をしている。実際には訪問先のご家庭にあげていただき一緒に食事をしている学生もみられた。温かな心配りに感激する学生も多いようである。午後は大学に向けて移動する。
実習5日目は、学内で実習のまとめをグループごとに行い、午後は弓庭保健師さん参加のもとで、グループ毎に体験、注目した事柄その理由などの発表を実施する。
実習第4日目で複数の学生が記録した事項
人間関係初日より親近感を覚えた
目線を合わせることで安心感が生まれた
受けられているという人情を感じた
言葉遣いや細やかな気遣いなどちょっとしたことが大事
人と人との関わりを大切にしてお互いを支え合っている生活
家族のように温かく迎えてくれた
ありがとうの言葉が大きな感動を生む
人の温かさ、仲間の大切さを感じた
別れが悲しかった
生活
保健師の仕事の大切さ
無医地区での健康に対する取り組み
少人数教育のメリットとデメリット
学生自身
めんどくさかったけれど交流会やってみてよかった
また行きたい
ストレスをためない生活の大切さ
高齢者への接し方・言葉遣いの難しさ
自分をしっかり持つ
僻地医療に興味を持った
ボランティアへの参加希望
地域の保健師として役立ちたい
ずっと知ってる人のように会話ができた。嬉しい
常に学ぶ姿勢を忘れない
静かな環境、温かい人柄に接しすべてがいい経験
評価と今後の課題
到達目標を設定するのは困難な実習である。感性、洞察力、行動力、協調性など学生自身が自己評価し、今後の自らの課題などを考える機会になればと思っているが、現時点での評価内容は、(1)情報を獲得し、その情報に印象や感情を抱くことができた。
(2)情報から、疑問や問題意識を抱くことができた。
(3)情報から、生活と健康について関心を広げることができた。
(4)情報を契機に自己を客観視することができた。
以上4つの項目で評価している。学生の実習評価は5段階評価で総平均4.0であったが、「看護に対する興味関心が深まった」の項目は平均4.5であった。
今後の課題は、山間部の過疎地域での早期体験実習は学生の生活環境とは大きく違うため、保健・福祉活動や住民の生活の様子は鮮明に印象に残るが、この体験がその後の教育にどのような効果があるのかを明らかにし、この早期体験実習について再検討する必要があるのではないかと考える。
