地域と連携した健康づくりカリキュラム

家庭訪問

目的

2年次生後期の「家族と看護」の授業で、地域で生活している対象の理解および家族を単位とした支援の意義について理解できるよう、乳児のいる家庭への訪問学習を行っている。

家庭訪問
の目的
継続的な家庭訪問により、生活の場における対象の理解および家族を単位とした支援の意義について理解する。また、地域の資源、育児支援システムを理解する。
家庭訪問
の目標
1. 地域で生活している住民の様々な価値観・生活スタイルを理解すると共に、住民との援助関係を築く基本的な態度を身につける。
2. 家族の機能と発達課題について理解し、個人・家族の健康ニーズを的確に把握し、問題を解決していくための家族を単位とした援助過程を理解できる。
3. 健康な乳児の発育発達が理解できる。
4. 地域の子育て環境を把握し、子育てサークルなどの社会資源や制度、支援システムが理解できる。

概要

大学近隣の2市の各保健センターの協力を得て、4ヶ月健診時に教員が親に直接依頼し、協力が得られたケースを対象にしている。学生2名1組で、5ヶ月〜8ヶ月の乳児のいる家庭を継続して2回の家庭訪問を行っている。初回は教員が同伴し、その後は学生だけで実施している。

3年間の訪問状況
年度 学生数 訪問対象数 訪問時期
18 93 47 10月/11月(教員同伴)・12月(学生のみ)
19 85 43 10月(教員同伴)・12月(学生のみ)
20 82 41

 学生の多くは乳児を抱いたことも身近で見たこともなく、地域で生活する健康な人々への支援についてのイメージをもちにくい状況であるため、学内の講義やビデオ鑑賞、訪問場面を想定しての演習を充分に行った上で、家庭訪問に臨んでいる。特に、訪問中に知り得たことは秘密の保持を厳守すること、事故防止のため安全の確認を十分することは何度も行っている。今まで学んできた小児看護や母性看護の授業、発達保健実習での保育所や子育てサークルの場面を振り返りながら、事前の自己学習を深め、訪問計画を立て実施・評価し、次の訪問につなげている。2回目の訪問では、具体的に離乳食、事故予防、遊び、社会資源の紹介など、それぞれの対象に合った情報提供を工夫して行い、好評を得ている。各訪問後には、グループに分かれ教員同席のもとカンファレンスを行い、同じ月齢の乳児がいる家庭であっても、それぞれ違いがあることに気づき、対象者のニーズにあった支援の必要性について学んでいる。

家庭訪問に関する授業計画
項 目 内 容
講義
家庭訪問過程、模擬事例の計画立案
事前学習の提示
ビデオ鑑賞
家庭訪問場面、乳児の発達
演習
教員のデモンストレーションを見学、教員の助言指導による
ロールプレイ(母・保健師・観察者役を全員体験)
事例紹介
事例の計画立案(ペア)、教員の助言指導
訪問先への連絡
第1回家庭訪問
教員が同伴(最初の約30分間)
訪問実施記録、次回訪問計画
カンファレンス
担当教員毎のグループで情報交換
記録の提出、教員の助言指導
第2回家庭訪問
学生(ペア)の単独
(アンケートの依頼)
カンファレンス
担当教員毎のグループで情報交換
教員の助言指導、訪問実施記録
レポート 記録とレポート「家庭訪問で学んだこと」の提出

初回の家庭訪問時はどの学生も緊張感をもって訪問するが、乳児の愛くるしい笑顔と母親の優しさに支えられ、徐々に緊張がほぐれて乳児に笑いかけたり、母親とコミュニケーションがはかれるようになっていく。2回という少ない訪問回数であるが、学生は約2ヶ月間の乳児の発育・発達の早さに感動し、母親や父親の我が子の健やかな成長を願う気持ちに感銘を受け、家族の存在の大きさを学ぶ貴重な機会となっている。また、家庭訪問を行うことで、学生は母親との信頼関係をつくる必要性を実感し、自身の看護学生としての姿勢を見つめ直す機会にもなっているようである。

学生と保護者の感想

訪問終了後に学生と保護者にアンケート調査をしたところ次のようであった。

1)学生への調査
(1)家庭訪問を通して満足が得られたこと(複数回答)
「赤ちゃんと触れあえたこと」、「お母さんから話が聴けたこと」がそれぞれ88.9%と最も多く、次いで「児の成長・発達が理解できたこと」75.3%、「家族の様子を知ることができたこと」74.1%、「お母さんとよい人間関係が築けたこと」39.5%、「お母さんに情報提供できたこと」29.6%の順に多かった。

(2)家庭訪問での実施内容についての自己評価の回答
「できた」の評価が多かった項目は、多い順に「児の発育・発達を確認すること」70.4%、「訪問先での言葉遣いや態度を配慮すること」66.7%、「お母さんの想いを傾聴すること」61.2%、「お母さんの頑張りを支持・共感すること」54.3%であった。「あまりできなかった」の評価が多かった項目は、多い順に「家族員一人一人の健康状態を把握すること」35.8%、「対象のニーズに応じた援助」35.8%、「近隣との関係の把握」24.7%、「援助ニーズを判断するための情報収集」23.5%の順に多かった。

2)保護者への調査
(1)学生に対する訪問時の感想(複数回答)
「子どもをかわいがってくれたので嬉しかった」91.9%、「話ができて気分転換になった」78.3%、「情報提供してもらえて良かった」32.4%、「会話が進まずつらかった」10.1%であった。

(2)保護者の学生に望むことや感想
記載内容を分類すると、(1)訪問時の感想、(2)訪問の内容や意見について、(3)訪問態度について、(4)学生への激励の4つに分類できた。

保護者の学生に望むことや感想
分類項目 主な意見
(1)訪問時の感想 ・子どもと遊んでもらえたのでとても良かった
・きょうだいもすごく喜んだ
・子どもの成長・発達を喜んでくれてうれしかった
・気分転換になった
・新鮮で楽しい時間を過ごすことができた  など
(2)訪問内容や意見 ・親子にとって貴重な時間であった
・客観的に子どもを見る機会となった
・回数を増やしてはどうか
・保育所、離乳食、事故予防などの情報が役立った  など
(3)訪問態度 ・明るく、礼儀正しい
・理解しようとする態度が伝わった
・オリジナルな支援ができていた  など
(4)学生への激励 ・信頼できる看護師、寄り添える保健師になって欲しい
・応援している、頑張ってください  など

3)学生のレポート(抜粋)

・家庭訪問により、子育てが母親にとっての楽しみであることや、それだけでなく不安や疲労も強いことが理解できた。体力的にも精神的にも負担が大きい子育てを支援し、より良い児の成長発達を促すこと、育児不安を軽減することにより母親の健康を保つこと、新しい家族関係の構築を支援することが必要であることがわかった。そして家族という者は、地域で生活する一人ひとりを理解する重要な視点であることも実感した。(H18年度)

・乳児の成長・発達が順調か判断するためには、「正確な知識」を持つことが大切である。その上で、必要な情報を得るためには、母親が意見を言いやすい雰囲気作り、つまり信頼関係を築くことが重要である。毎日育児を頑張っているお母さんをねぎらい、母親の気持ちをくみ取ることだ。家庭訪問は、母子だけでなく、家族全体、また地域全体を把握して支援していくと共に、それぞれにあった援助を考え、情報提供などの支援を行うことが大切である。(H19年度)

・ 家庭訪問に実際に行って、家族が自信を持って子育てができるように、また地域で生き生きと暮らしていけるように関わっていくことが必要であると言うことをすごく感じた。情報提供する際に、地域の専門職が連携し協力しながら、それぞれの持つ力を十分に発揮することで、地域の人々に働きかけているのだと思った。また、家庭訪問で関わる看護者や医療者は対象の家族一人ひとりの能力を信じ、努力を理解し、良い面をさらにのばしていく関わりもとても大切であると感じることができた。(H20年度)

今後の課題

 家庭訪問の目標にそって学生の実施内容についての自己評価をみると、実習目標1に関連する項目では、訪問先での態度、お母さんの思いを傾聴すること、頑張りを支持・共感することの評価が高かった。実習目標2に関連する項目をみると、家族の健康状態を把握する、対象のニーズに応じた援助、援助ニーズを判断するための情報収集が低かった。実習目標3に関する項目をみると、児の発育・発達の確認が多く、目標4項目の中では最も高かった。実習目標4に関連する項目については、近隣との関係の把握が低かった。これらのことから、学生は訪問をとおして、援助関係を築いたり、家族の価値観や生活スタイル、児の発育・発達の理解はできているが、ニーズに応じた援助の実施や社会資源や制度についての理解が難しいという結果であった。
 実習時期は2年次の後期で、各領域の学習は進行中の段階であり、実習は早期体験実習、基礎実習を終え、発達保健実習を挟んでいる。これまでの授業や実習の知識をつなげ、事前に、児の観察項目や保護者への情報提供内容を学習し、訪問技術を深めることが大切である。現状の講義の中で、健康な人への保健活動の意義を伝え、必要な情報を得る知識を事前の課題学習とし、乳児への対応の仕方やコミュニケーションスキルを高める学内演習を継続し、訪問で把握した保護者のニーズを、支援につなげる初回訪問後の学習の工夫が必要である。実際の実習場面で理解できなくても、カンファレンスや記録を通しての指導方法も検討したいと考える。
 学生の訪問は、乳児や母親にとっては良い機会となり、日常生活の中で良い刺激となっていると思われる。今後も継続して実施していくためには、母親が求めている情報提供も参考にしながら、訪問前後の学習を深めていくことが求められる。
 2年次生後期の早い段階では、家庭訪問を通して地域の健康課題を理解するまでの達成は難しいが、受け入れの良い乳児のいる家庭への継続した訪問を通して、生活の場における対象の理解および家族を単位とした支援について学ぶ第一歩として有効であると考える。この家庭訪問を基本とし、3年次生、4年次生の地域看護実習、さらに各領域の実習にもつなげていきたい。
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