地域と連携した健康づくりカリキュラム

発達保健実習

目的

 発達保健実習は、地域で暮らす各発達段階(周産期から高齢期)にある人々の生活に触れ、健康な生活を送るために生活環境や保健管理や教育のあり方について学ぶことを目的とし、2年次の後期に位置付けられている。各発達段階別の実習目的を下記に示す。
 1) 地域で生活する母子の健康生活への環境作りについて学ぶ。
 2) 園児・児童・生徒の集団生活場面での実習を通して、小児期の成長・発達の特徴を理解し、健康管理や生活指導に携わる人々の役割について学ぶ。
 3) 労働環境を見学し、成人期の人々の健康な生活支援のあり方について学ぶ。
 4) 地域住民の生活を守るための安全な環境のあり方について考える。
 5) 地域で活動する高齢者との関わりを通して地域で暮らす高齢者の生活を学ぶ。
 本実習では、健康に生活を送っている人々と接することを重要視し、知識と実際を結びつけることができ、健康と生活、さらに保健について学生自身が自主的に学べる貴重な機会となっている。
 この実習に向けて、「生命倫理」「保健看護学入門」「発達心理学」「ライフステージと看護」「健康と看護」等、幅広い知識の習得を中心に講義が組まれており、これらの知識を統合して、人々の生活を多方向から考えることができている。

実習施設(年度により多少変更有)と実習スケジュール

領域 実習施設
周産期 パルポート太田(マタニティースイミング、ベビースイミング等)
キッズステーション(子育て支援)
ほっとルームぐるんぱ(子育て支援)
小児期 ようすい保育園・しょうぶ保育園・さつき保育園・さんた保育園・みちる保育園
名草小学校・浜宮小学校
西和中学校・明和中学校・東和中学校・西浜中学校・日進中学校
成人期 財団法人和歌山健康センター
花王株式会社和歌山工場
関西電力株式会社和歌山支店
エクソンモービル有限会社
労働福祉事業団和歌山産業保健推進センター
和歌山県警察本部
和歌山県環境衛生研究センター
高齢期 田野浦漁業協同組合
紀州漆器協同組合
財団法人和歌山県いきいき長寿社会センター
特定非営利活動法人新和歌山NPO
26施設の中より、領域すべてで実習が実施できるようスケジュールを立てている。

 実習最終日は、学内において、発達段階別にそれぞれの施設で得られた内容や考えた事柄について意見交換をおこない、健康的な生活を送るために必要な保健・福祉・教育について思考を深めている。

実習評価

 領域毎の担当教員による実習中や学内カンファレンスでの積極性や人々に対する態度等と実習全体を通してのレポートから評価を行っている。

実習の概要

 2週間のうちに5施設で実習するという慌ただしさは残るが、周産期・幼児期・学童期・思春期・成人期・高齢期という各ライフステージ(発達段階)の特徴をとらえることができ、人の一生という長い経過を俯瞰的ながらとらえ、関わり方(接し方)の違いを学ぶことができる意義のある実習となっていると考える。
 レポートから、一人の人間の時間の流れを大切にするという考えを学生が身につけ始めており、多くの人と接する機会を持つということは、講義では得られにくい、現実から保健・福祉・医療・教育に対するニード(要求)を知ることにつながっている。
 プロフェッショナルとして仕事に対する責任感や積極性についても考える基盤となるような体験実習であるよう、今後も検討を加え実施していきたいと考えている。

領域毎の報告
1) 周産期

(1)目的
 周産期の実習では、地域で暮らす周産期にある人々に触れ、健康な生活を守るための保健管理や生活環境のあり方について学ぶことを目的としている。
(2)概要
 平成18年度は、パルポート太田でマタニティースイミング・ベビースイミングに参加した。平成19年度からは、実習活動の場を地域の子育て支援へ拡げ、こどもNPO団体であるキッズステーションやほっとルームぐるんぱに参加している。
 学生達は、3ヶ所の実習施設で母子やスタッフの方との交流を通して、母子の生活の現状から健康な生活への環境づくりについて考えている。一日の実習のまとめとして、学内でカンファレンスを持ち、地域で暮らす母子の生活の現状はどのようであるか、実習施設が母子にとってどのような場となっていたか、また、実習目標に対する学びなど話し合っている。そして、発達保健実習最終日には、全員で、テーマ:「地域で生活する母子の現状・ニーズと地域における現状から考えた、母子の健康な生活を守るための生活環境のあり方」についてまとめを行っています。
 平成19年度は全体でのグループ討議の後、周産期担当グループが周産期における母子への子育て支援の情報提供のあり方や保健所と子育て支援施設の情報交換のあり方などについての学びを発表した。平成20年度は、同テーマで全体でのグループ討議を行い、全グループの発表、討議を行った。これらの実習を通して、子育て支援施設を利用している母子の生の声を伝達していく情報提供のあり方や、定期健診や保健師の家庭訪問での母子への声かけの大切さ、父親(男性)の参加の呼びかけが大切であるとの学びを発表しました。
(3)学生の感想と学び
 母子のスイミングに参加した学生は、「親子の距離が自然と近づき母子ともに楽しむことができる」「妊婦の腰痛軽減や運動になり、分娩時の呼吸法も練習することで身体面での健康を維持・増進させる」「お母さんと赤ちゃんが同じ時間をすごすことでより愛情や絆を深めることができるとわかった」と身体面・精神面の効果があることを学んでいる。
 キッズステーションやほっとルームぐるんぱのような子育て支援の場に参加した学生は、「母親はこどもと二人だけで過ごすと息がつまる」「こどもとどうやって遊んでいいかわからない」「自分のこどもの成長が遅れているのではないかと心配している」と子育てのストレスや不安、悩みを聴けてよかったとの感想があった。学生達は、地域で暮らす母子の子育ての大変さを実感できている。
 さらに、「母親は他の母親に相談することで自分の悩みが解消される」「母親は他のこどもと遊んだりすることで、自分のこどもの成長に気づくことができる」「年齢の違うこども同士で遊ぶこともこどもの発達や集団生活によい刺激となる」と母親同士が子育ての不安や悩みを気軽に相談することやこどもとの遊びを学ぶことでストレスの発散や悩みが解決できることを学び、実習施設がそのような場となっていることに気づいています。
 学生達は、実習施設のような場所があることを知り、私たちが看護専門職として情報発信していく必要性があると考えている。そして、母子とふれあうことで、母親同士が繋がり支えあっていけるように母子が交流をもてる機会や場を提供することが母子の生活に必要であることを学んでる。
(4)今後の課題
 この実習を通して、学生達は母子の生活の健康づくりや環境づくりについて学べている。今後は3年次の保健看護実習Aへの専門領域(周産期看護)につなげて深めていくことが課題である。

2) 小児期

(1)目的
 小児期にある人々の集団生活の場を見学し、保健教育・保健管理の現状を知り、成長発達への関わり方を学ぶことを目的とし、実際には、
a 幼児期・学童期・思春期の人々の発達段階を知る。
b 発達段階ごとに成長・発達への働きかけの必要性を理解する。
c 集団生活を営むための、保健管理や保健教育(生活指導)の実際を学ぶ。
d 保育園や学校で小児と係わる人々の役割と連携の必要性について学ぶ。
e 健康教育の現状を知り、家庭や地域との連携の必要性について考える。
以上5項目について、実習中の学習ポイントとして学生に提示している。
(2)概要
 学生は、1カ所の保育園に2日間、小学校または中学校1校で2日間の実習を行う。
保育園実習では1グループ4〜5名、学校での実習は3〜4名が1グループとなるよう編成している。また1施設2日間という短期間であるため、実習施設側のオリエンテーション(教育方針や実習中の諸注意など)は、実習前に学生が実習施設に行き、担当者(園長先生、校長先生または教頭先生)から説明を受けることができるように配慮している。
 保育園では、未満児クラスから年長児クラスに学生が分かれて入り保育を体験する。遊び、食事介助、排泄介助、家庭との連絡等を保育士と一緒に行い、年齢による成長・発達の違いや同年齢でも個人差が大きいことなどを学んでいる。感染対策として検便検査を実施し、伝染性疾患の抗体の有無の書類と一緒に保育園に提出をしている。
 小・中学校では、時間割に沿って授業参観をしたり、課外活動にも参加したりすることで児童・生徒と交流を持ち直接話ができる時間が持てるようにしている。また、養護教諭から学校全体の安全対策や健康管理の実際について説明を受け、現状と学校の役割について学習する機会を得ている。
(3)感想と学んだこと
保育園実習から
・子どもの成長・発達の違い・・精神面・社会面・身体面ひとそれぞれ違う
・その個別性への対応の難しさ・・援助方法の工夫が重要
・集団生活への適応過程・・しつけ、友人関係、マナーの獲得など保育の多様性
・保育士の関わり方・・喧嘩時の対応、親との信頼関係、家庭生活へのアドバイス
・感染対策・・手洗い、歯磨き、食事時の環境整備
・生活リズムの獲得・・排泄、お昼寝、食事、おやつ、授乳、遊びの大切さ
小・中学校実習から
・教える技術だけではなく、子どもを成長させたいという想いを持つことが大事
・一人一人が生き生きと・・よくわかる授業を通して自信をつけること
・教育の意味・・(自己を高める+社会に貢献する人格形成) このバランスが重要
・教師の関わり方により、その子の人格が左右される時期
・教師の愚痴を聞くのも養護教諭の役割
・地域に開かれた学校の意味
(4)今後の課題
 本実習では、0歳児から15歳児まで接することができ、成長・発達が顕著であることや、個人差が大きいことなどその場にいるだけで学習できる機会であり、それぞれの年代にあった関わり方の重要性にも気が付ける実習である。約1年後に開始する病院実習での小児看護学実習にむけて、この実習で体験したことや学習したことを継続させるための工夫が必要と考える。
 実習時期が感冒流行時期と重なることから、学生に対して感染対策について検討していく必要がある。

3) 成人期

(1)目的
 企業で働く人々の健康の保持・増進・労働災害や疾病予防を図るために、作業環境管理、作業管理、健康管理の現状を学び、働く人々の健康な生活への支援のあり方について考えることを目的とし、実際には
a 働く人々の作業内容や勤務状態について知る。
b 働く人々の作業環境の状況を知る。
c 労働災害を予防するための安全対策や健康の保持・増進・疾病予防のための健康管理の状況を知る。
d 働く人々の健康づくりや生活支援のあり方について考える。
以上4項目を、具体的な学習内容として提示している。
(2)概要
 実習場所は、和歌山県内にある財団法人和歌山健康センター、花王株式会社和歌山工場、エクソンモービル有限会社、関西電力株式会社和歌山支店、労働福祉事業団和歌山産業保健推進センター、和歌山県警察本部、和歌山県環境衛生研究センターなどの中から1カ所へ20人から5人程度のグループになり実習を行った。実習内容は、各施設における労働環境や労働条件、そこで働く人々の健康の保持増進のために、実際に行われている対策や健康管理体制などを見学したり、企業で働く保健師の活動内容として、療養指導や健康相談、健康指導や企業における保健師の役割などを聞いた。
 社会経験の少ない学生にとって、初めて体験することや見ることばかりだった。しかし、実際に職場内を見学したり、そこで働く人々による話を聞くことにより、学生は職場の状況を現実的に理解することができた。そして、それぞれの職場における仕事内容の特徴をとらえ、そこで働く労働者が抱える健康問題は具体的にどのようなものがあるのかを考えることができた。さらに、労働者が“働きながら健康で居続ける、健康でいながら働き続ける”ために、これらの問題を解決できる方法は何か、企業における健康管理とは何か、今後の課題は何かについて、より具体的に理解を深めることができた。
 実習終了後学内で、各企業で学んだことをグループ毎にまとめ、まとめたものを発表し学びを共有した。
(3)今後の課題
 各企業で実習が行える人数には制限があり、グループ人数も20数名のところから、5名程度のところと差が大きい。そのため、現場での学びを共有するには限界がある。可能な限り、各グループの人数を統一し、実習できる企業数を増やすことで、より職種の異なる職場の実態を体験することができると考える。
 また、各企業での学びをより多くの職種を理解するために、学びを共有する方法を工夫することで、より学びを深めることができると考える。

4) 高齢期

(1)目的
 地域で暮らす老年期の人々の生活に触れ、健康な日々を守るための健康管理や生活環境のあり方について学ぶことを目的とし、実際には
a 老年期にある人々の生活の場を見学し、生活環境の現状を知る。
b 老年期にある人々との関わりを通して健康管理の現状を知る。
c 老年期にある人々の生活環境や健康管理の問題点を知る。
e 老年期にある人々の生活環境や健康管理のあり方について考える。
以上4項目を具体的な学習内容として提示している。
(2)概要
 平成18年度と平成19年度は、田野浦漁業協同組合と紀州漆器協同組合、県いきいき長寿社会センター、特定非営利活動法人新和歌山NPOの4カ所にて実習を行った。田野浦漁業協同組合における実習では和歌山県の漁業や漁師の生活について学び、その後田野浦地区をまわり住民と触れ合う機会をもっている。また、平成19年度からは雑賀崎地区の極楽寺住職の講話を聴いて生老病死についても学ぶ機会をもっている。紀州漆器協同組合における実習では、紀州漆器伝統産業会館にて黒江塗りの歴史や漆器の工程について学び、実際に塗りの体験も行っている。さらに漆器職人の仕事場を訪れ、漆器職人の生活環境を知り、健康管理の現状についても学んでいる。県いきいき長寿社会センターにおける実習では、ビッグ愛で開催されるシニアカレッジに参加して、高齢者との交流を行っている。特定非営利活動法人新和歌山NPOでは、高齢者が自主運営している「つれもて長寿の会」と「NPO松ヶ丘」の2カ所において実習し、高齢者と交流をもっている。また、趣味の教室にも参加しブローチづくりなどを体験している。この実習のなかで高齢者同士の交流だけでなく高齢者と若い世代との交流の大切さについても学ぶことができている。この施設における高齢者の健康管理の現状を知り、医療従事者が不在であることから看護職など医療従事者の必要性を感じている。
 平成20年度は、田野浦漁業協同組合と特定非営利活動法人新和歌山NPOの2ヶ所にて実習を行っている。実習後学内においてグループ討議を行い、その討議の内容を発表し学びを共有できるようにしている。
(3)感想と学んだこと
 田野浦漁業協同組合において実習した学生は、漁獲量の減少や後継者不足、燃料費の高騰などといった漁業の抱える問題や不規則な漁師の生活、腰痛や膝関節痛など漁師に多い疾病などについて学ぶことができた。田野浦地区は高齢化と過疎化の現状が進んでいる地区であり、医療機関や薬局もなく、交通機関は1時間に1本のバスのみである。山あいに家が密集し、道路が狭く坂道や階段が多い地形であることから、このような生活環境は高齢者にとって負担であるととられがちである。しかし、学生はそれがかえって高齢者の足腰を鍛え、健康意識を高めているととらえている。自然に恵まれた環境やゆっくりとした時間の流れに魅力を感じている学生もいた。この地区で暮らす高齢者の表情が穏やかであるのは、高齢者と近隣の人々が信頼関係でしっかりと結ばれ、安心して生活しているからだと考える学生もいた。働き続ける高齢の漁師の姿から、高齢になっても働き続けることの大切さや仕事への情熱、生きがいについても学ぶことができた。
(4)今後の課題
 この実習を通して、学生は就業や活動する高齢者と交流し、高齢者の健康な生活を守るための健康管理や生活環境について学ぶことができている。今後は3年次の保健看護実習C(高齢者)へとつなげて深めていくことが課題である。
Copyright© since2006 School of Health and Nursing Science, Wakayama Medical University