地域と連携した健康づくりカリキュラム

『地域と連携した健康づくりカリキュラム』の病院実習
実習の概要

実習目的

 病院実習の目的は、地域医療を支える和歌山県内の病院において地域医療の実際を見学し、地域医療について理解することである。

実習目標
1)地域医療を支える病院の役割や機能を理解する
2)地域医療の現状や課題を理解する
3)地域医療を支える専門職としてのあり方を地域医療に携わる医師や看護師から学ぶ
4)病院と地域との連携について学ぶ
5)地域社会の保健・医療・福祉のニーズを把握する

実習方法
1日目 9:00〜16:00
※病院によって若干開始時間が異なる
・病院の説明(病院の歴史、特色、概要、運営理念、基本方針、組織図など)
・病院長の説明(地域医療の現状、地域医療に対する意欲、求める看護師像)
・看護部長の説明(看護部の理念、目標、看護の特徴、教育体制など)
・病院と地域との連携の説明
・病院全体の見学
2日目 9:00〜16:00
・看護師と行動を共にしながら看護の行われている場を見学する
・カンファレンス

実習記録
実習終了後にレポート「病院実習を通して学んだこと」を提出する(このレポートは実習病院に送付している)

対象学年
3年次生(編入生も含む)
3年次後期から4年次前期にかけての領域別の実習中である。
看護学の基礎となる科目は既に履修している。
看護研究や看護管理実習、地域看護実習Uなどは未履修である。

3年間の概要

平成18年度
実習期間 平成19年2月22、23日
実習病院 12施設
高野町立高野山病院、橋本市民病院、国保野上厚生総合病院、県立こころの医療センター、国立和歌山病院、社会保険紀南病院、白浜はまゆう病院、国立南和歌山医療センター、国保すさみ病院、国保古座川病院、新宮市立医療センター、岩崎病院
学生数 86名

平成19年度
実習期間 平成20年2月20、21、22日
実習病院 10施設
高野町立高野山病院、橋本市民病院、国保野上厚生総合病院、県立こころの医療センター、国立和歌山病院、社会保険紀南病院、白浜はまゆう病院、国立南和歌山医療センター、国保すさみ病院、国保古座川病院
学生数 87名

平成20年度
実習期間 平成21年2月23、24日
実習病院 11施設
高野町立高野山病院、橋本市民病院、国保野上厚生総合病院、県立こころの医療センター、国立和歌山病院、社会保険紀南病院、白浜はまゆう病院、国立南和歌山医療センター、国保すさみ病院、国保古座川病院、済生会和歌山病院
学生数 79名

学生の学びと感想 学生の学び

学生はこの病院実習によって地域医療と看護について学ぶことができた。
  1. 地域医療について学んだこと
     和歌山県には7つの医療圏があり、各保健医療圏において保健医療供給体制の整備が推進されている。学生は実習病院がどの保健医療圏に属するか、その保健医療圏の病院・診療所などの施設数や病床数など医療供給体制の整備状況について学ぶことができている。また、保健医療圏内における病病連携や病診連携やへき地医療についても学ぶことができている。さらに、医療施設の地域的遍在や医師不足など和歌山県の地域医療の問題についても学ぶことができている。
     学生は、地域医療支援病院や地域がん診療連携拠点病院、災害拠点病院、へき地医療拠点病院、在宅医療の支援病院、遠隔医療の支援、観光医療といった実習病院の機能についても学んでいる。
  2. 看護について学んだこと
     実習病院は海や山など自然環境に恵まれた病院が多く、学生は患者がこの恵まれた自然環境のなかで癒されて元気になっていくと考え、環境の大切さについて改めて学ぶことができている。学生は看護師と行動をともにする実習において、優れた看護技術をもち一人ひとりの患者に丁寧に関わっている看護師の姿に感動している。また、看護師のコミュニケーション能力の高さと非言語的コミュニケーションの素晴らしさを知り、コミュニケーションの大切さを改めて学ぶことができている。
     栄養サポートチームや感染症対策チーム、褥瘡対策チームなどチーム医療について説明を受け、医師や薬剤師、栄養士など他職種との連携の大切さや看護師のリーダーシップの重要性について学んでいる。地域医療連携室の役割や継続看護における看護師の役割についても学んでいる。実習病院は看護師の教育体制が整っている病院が多く、年間教育計画に基づいて対象別教育や全体研修など病院の教育体制について学ぶことができている。

学生の感想

  • 地域医療は、住民の健康を守るために地域にどんどんと出向き、住民に寄り添い、より住民のニーズに応えることができるようにしていくことが重要であると感じた。
  • 地元の病院であることから就職を視野に入れて、看護だけでなく病院全体をみることができた。この実習を通して地域との連携や他職種との連携、病院のあり方についてまで学ぶことができた。
  • 病院同士の連携が非常に大切だということを感じた。実習前は地域の連携についてよく分かっておらず漠然としたイメージしかもっていなかった。実習でさまざまなお話を聞くなかで、地域の中核病院だけではなく、患者さんが帰っていく地域の開業医とも連絡を密に取り合い、退院していく患者さんに診療所を紹介したりしていることがわかった。病院が独立したものではなく、地域の中の一部であることを改めて考えることができた。病院は、病院の中だけではなく、地域と連携し合って健康づくりを行っているのだということを学ぶことができた。
  • 白浜町は観光地であり、多くの観光客が訪れます。観光客の事故等に対応するために救急医療が充実しており、救急車の受け容れ率はほぼ100%とのことです。救急時のトレーニングは全職員が参加して訓練されており、その土地の特性や特徴に合わせた医療体制を築くことも重要であると学びました。
  • 病院実習を通して印象に残ったのは、患者さんと医師・看護師の関係の深さです。機械化がすすんだ現代の総合病院ではパソコンの画面を見て患者さんの顔を見ずに診察することが多くなっている一方で、この病院の医師は一人一人の患者さんの目を見て話し、心からその人に向き合う姿勢で接しており、“人そのもの”を大事にした医療・看護の提供の必要性というものを学びました。
  • 訪問看護に同行し、訪問させてもらったときにある高齢者と出会いました。その高齢者は先生(医者)と話すだけで元気になれる、診療所に行ってみんなとしゃべるのが楽しいとおっしゃっていた。このことから、診療所に行くこと自体で、安心感を得たり、こころの安定をはかったりできるのだと思いました。高齢者が安心して生活できるように、頼ることのできる存在として、医師や看護師は必要とされていることがよくわかりました。
  • 地域の病院では最新医療機器が揃わず、スタッフの人数や必要物品が揃っていないときもある。しかし、必要な人や物が揃わない状態であっても基礎を応用し、今あるものを上手に活用して最大限の医療を提供することが大切であると学んだ。
  • 精神疾患の単科病院では、入院中の看護のほかにも社会に適応できるようにするSSTや外来看護、訪問看護などさまざまな取り組みを行っていた。地域の小学生が歌やソーラン節を踊るという行事やボランティアの方々との交流も行っている。そうすることにより、小学生の疾患に対する知識や理解が深まり、また心の触れ合いをもつことができるのだとわかった。地域との関わりを積極的に行い、受け入れていくことで患者さんの気持ちにも影響を及ぼしていくことが実感できた。
  • 今回この3日間で病院長、看護部長、看護副部長、MSW、訪問看護師、病棟の看護師から本当に多くのことを学ぶことができ、4回生を目前にした今の時期に他の病院で実習することによって多くの刺激を受けることができた。
  • 重度心身障害児(者)の実習で感じたことは、看護師が第一に患者を一人の人としてとらえているということだった。看護師は、ケアも多く、素早く異常に気づくために神経を張っていなければならない状況で「うちの子たちは本当にかわいい」と話していたことが印象的であった。2日間の実習であったがこれほど患者の表情に神経を集中させた実習はなかった。

今後の課題

 学生は、この病院実習において保健医療圏や病院の役割、地域医療の現状や課題など多くのことについて学ぶことができた。
 この病院実習は、学生の希望や居住地を優先して実習病院を決定しているので学生の意欲は高く、将来の就職を意識して実習に臨んでいる学生もいる。また、病院実習では、病院長や看護部長に面会し直接説明を受ける機会があり、学生は多くのことを学ぶことができたと考えられる。
 しかし、この病院実習は2日間という非常に短期間の実習であることから見学や講義中心になっている。学生が実習中に外来患者や入院患者と触れ合う時間が少ないため患者と触れ合う時間を確保し、直接患者から地域医療のニーズを聴く機会をもつことが必要である。そういった機会をもつことができるように実習期間や実習内容の検討をしていくことが今後の課題である。
 また、実習病院は、地域差や病院差があるため学生相互の学びを深めるために、実習終了後に各病院での学びを発表する機会をもち、学びの共有をはかることも今後の課題である。
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