DNA損傷修復障害による腸炎モデルマウスの樹立

―弱ったリンパ球の暴走が腸炎を引き起こす―

DNA損傷修復障害による腸炎モデルマウスの樹立

日時 令和8年10月7日(水)14時00分~14時20分
場所 生涯研修センター研修室
発表者

本学医学部 血液内科学講座   助教 山下友佑
  産官学連携推進本部 学長特命教授 改正恒康

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発表の概要

 DNA損傷は、神経やリンパ球などの生成過程で生理的に生じるほか、その他の細胞や組織でも、紫外線、喫煙、食物中の化学物質、加齢など、さまざまな要因によって日常的に生じています。そのため、私たちのからだにはDNA損傷を修復するシステムが不可欠です。DNA損傷が十分に修復されないと、遺伝子変異の蓄積により発がんリスクが増大すると共に、細胞や組織が傷害され、炎症性疾患や老化関連疾患などにもつながると考えられています。しかし、DNA損傷修復の障害がどのようにしてこうした病態を引き起こすのかについては、適切なモデルマウスが限られており、十分に解明されていません。

 DNAリガーゼIV(DNA ligase IV、LIG4)は、DNA損傷の修復に欠かせない酵素です。LIG4遺伝子の変異(バリアント)によりLIG4の機能が低下する「LIG4症候群」では、成長障害、小頭症、放射線への高い感受性に加え、T細胞やB細胞といったリンパ球が減少する獲得免疫 *1不全を呈します。また、LIG4症候群では、白血病や悪性リンパ腫などのがん化リスクが高いこと、腸炎などの炎症性疾患を併発することも知られています。これまでにLIG4変異マウスが作製され、DNA損傷修復障害や獲得免疫不全に加え、リンパ系腫瘍を高頻度に発症することが報告されていますが、明らかな炎症所見は認められず、DNA損傷修復障害がどのように炎症につながるのかは不明でした。

 今回、和歌山県立医科大学を中心とする研究グループは、LIG4症候群の患者から同定したLIG4遺伝子のアミノ酸置換バリアント(447番目のアミノ酸であるトリプトファン(W)がシステイン(C)に変換、W447C)*2を導入したマウスを作製し解析しました。その結果、この変異をホモ接合性に有するマウス(ホモ変異マウス)では、DNA損傷修復機能が著しく低下し、著明な獲得免疫不全を呈することに加えて、重篤な腸炎を発症することがわかりました(図1)。 そして、この腸炎は、わずかに残存したTリンパ球により生じていることが明らかになりました。

図1 本研究で樹立したLIG4 W447C変異マウスは、DNA損傷修復障害による「免疫不全と炎症の併存」を再現するユニークなモデルマウスです。本モデルを用いることで、DNA損傷修復障害から組織傷害、炎症性疾患、さらには老化関連疾患に至る仕組みが解明されることが期待されます。

 本研究成果は、2026年9月1日(米国時間)に国際誌 JCI Insight にオンライン掲載されました。

 本研究は、和歌山県立医科大学を中心に、久留米大学、大阪公立大学、慶應義塾大学、大阪大学、兵庫県立大学、兵庫医科大学、および群馬大学との共同研究として実施されました。

1.背景

 DNA損傷は、リンパ球を始めとして、生体内の様々な細胞や組織で日常的に生じており、DNA損傷を修復するシステムは生体の恒常性維持に必須です。老化等によりDNA損傷の修復機能が低下すると、遺伝子変異が蓄積し発がんに至るリスクが増大しますし、細胞や組織の傷害が進み、炎症性疾患や老化関連疾患が生じたりします。しかし、DNA損傷修復の障害がなぜこのような病態に繋がるのかについては、まだ十分わかっていません。

 LIG4は、DNA損傷修復の主要な仕組みである非相同末端結合の最終ステップで、DNAの再結合という重要な役割を担っています。先天性免疫異常症の一つ、LIG4症候群では、LIG4遺伝子の変異(バリアント)により、LIG4の機能が低下し、DNA損傷修復が障害され、成長障害、小頭症、獲得免疫不全を呈すると共に、発がんリスクが増大し、炎症性腸疾患などの炎症病態も併発します。これまでにLIG4症候群患者由来の遺伝子バリアントを導入したLIG4変異マウスが作製され、DNA損傷修復障害や免疫不全に加えて、リンパ系腫瘍などの発症が再現されてきました。しかし、これらのモデルマウスでは明らかな炎症病態は認められていませんでした。

 我々は、LIG4症候群の患者から見出した遺伝子バリアントW447Cを有するマウスを作製し、そのホモ変異マウスにおいて致死的な腸炎を発症することを見出すと共に、その病態を解析しました。

2.研究の手法、結果

① 患者由来のLIG4 W447C変異を持つマウスを作製

図2  CRISPR-Cas9法 *3を用いて、W447C変異をマウスのLIG4遺伝子に導入しました。そして、そのホモ変異マウスでは、成長障害、小頭症などが認められ、胎仔線維芽細胞を用いた解析では放射線照射後のDNA損傷の増悪が確認されました(図2)。また、変異を持つLIG4タンパク質は、発現量に関してはほぼ正常でしたが、その活性(DNAをつなぎ合わせる能力)に関しては、正常LIG4タンパク質の約30分の1にまで低下していました(図2)。すなわち、W447C変異によってLIG4のDNA損傷修復機能が著しく 障害されることが明らかになりました。

 

② ホモ変異マウスにおいてT細胞・B細胞が著しく減少する「獲得免疫不全」を再現

画像  ホモ変異マウスでは、T細胞を作る胸腺、リンパ球が集積する脾臓は共に小さくなっていて、T細胞、B細胞の数が著しく減少していました(図3)。また、血中の抗体産生レベルも著しく低下していました。このように、ホモ変異マウスにおいて、重度の獲得免疫不全が認められました。

 

③ ホモ変異マウスにおいて重篤な腸炎を発症

図4  ホモ変異マウスは、離乳後から体重減少、下痢、直腸脱などを呈し、生後数か月で半数以上が死亡しました(図4)。大腸は、反復する炎症のため短縮していて、浮腫も著明でした。組織学的には、腸管上皮の過形成、杯細胞の消失、炎症細胞の浸潤に加え、陰窩膿瘍が認められるなど、潰瘍性大腸炎様の腸炎病態が認められました(図4)。また、炎症部位には、主にヘルパー(CD4陽性)T細胞とマクロファージが集積していましたが、B細胞はほとんど認められませんでした。このように、ホモ変異マウスにおいて、ヘルパーT細胞とマクロファージの浸潤を主徴とする重篤な腸炎の発症が認められました。

 

④ 腸炎の発症にはリンパ球が必須

図5  T細胞受容体や抗体の遺伝子再構成にはRAG2 *4が必須であり、RAG2が欠損すると、リンパ球は全く生成されません。そこで、W447C変異に加えてRAG2を欠損させたマウス、すなわちリンパ球がいないホモ変異マウスを作製しました。このマウスにおいて、成長障害や小頭症は認められましたが、腸炎は発症しませんでした(図5)。この結果、およびホモ変異マウスの炎症部位にB細胞が認められなかったことから、ホモ変異マウスに残存するリンパ球、特にT細胞が、腸炎の発症に必須であることが示唆されました。

 

⑤ 残されたT細胞はTh1細胞に偏っていた

図6  次に、腸管の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、ホモ変異マウスの腸管において、IFN-γに反応する遺伝子群の発現が著明に亢進していました。また、脾臓、リンパ節、腸管のT細胞をさらに解析したところ、主に、IFN-γを産生するヘルパーT細胞(Th1細胞 *5)が増加していました(図6)。これらの結果から、ホモ変異マウスでは、T細胞は数が顕著に減少しながらも、Th1細胞にシフトすることにより病態に関与していると考えられました。

 

⑥ T細胞の「多様性」の低下および病原性T細胞クローン候補の同定

 さらに、T細胞クローンがどのように変化しているのか、単一細胞レベルで遺伝子発現およびT細胞受容体レパトワ *6の解析を行いました。コントロールマウスでは様々なT細胞受容体を持つ多様なT細胞クローンが検出されました。一方、ホモ変異マウスでは、このようなT細胞の多様性が低下し、いくつかのT細胞クローンが偏って増殖し、活性化されていることが明らかになりました。これらのT細胞クローンには、Th1細胞も含まれており、腸炎の原因となるT細胞クローンが含まれている可能性が示唆されました。

3.結論および波及効果

 本研究により、LIG4 W447Cホモ変異マウスでは、DNA損傷修復機能が著しく低下し、成長障害、小頭症と共に著明な獲得免疫不全を呈する一方で、残存するT細胞の多様性が低下し、Th1細胞を中心とする偏った免疫反応によって重篤な腸炎が引き起こされることが明らかになりました。これらの結果から、DNA損傷修復障害により、リンパ球が数を減らしながらも、残存するリンパ球の一部が暴走し、重篤な炎症が生じることが示されました。

 本研究で樹立したLIG4 W447C変異マウスは、DNA損傷修復障害によって「免疫不全と炎症が併存する病態」を再現するユニークなモデルマウスです。

 今後、特定のT細胞クローンが選択・増殖する仕組みや、腸内細菌叢、腸管上皮・幹細胞などの関与を明らかにすることで、DNA損傷修復障害が免疫系の異常や慢性炎症につながる仕組みの解明が進み、LIG4症候群だけでなく、免疫不全を背景とする炎症性疾患や難治性腸炎の病態理解が進むことが期待されます。

 さらに、DNA損傷の蓄積やその修復機能の低下は老化とも密接に関連しています。そのため、本モデルマウスは、老化による組織傷害や老化関連疾患の病態解明、およびその制御に向けた研究への応用も期待されます。

4.掲載論文

掲載誌:JCI Insight

題 目:Hypomorphic Lig4 gene mutation in mice predisposes to Th1-skewed intestinal inflammation.

著 者:Yamashita Y, Kosako H, Kato T, Sasaki I, Iwabuchi S, Fukuda-Ohta Y, Okamura T, Tane M, Tabata S, Nakashima K, Tanaka K, Shiraishi K, Uchihara Y, Okuzaki D, Isono K, Shibata A, Mizushima T, Hemmi H, Kanazawa N, Kodama S, Miyoshi H, Ohshima K, Hashimoto S, Fujitani Y, Sonoki T, Tamura S, Kaisho T

公 開:DOI:10.1172/jci.insight.199040  2026年9月1日(In-Press Preview)

5.補足説明

*1 獲得免疫:T細胞やB細胞といったリンパ球により担われ、病原体など様々な抗原を受容体(T細胞受容体、抗体)を介して認識して排除する免疫機構。

*2 我々のグループから国際誌(Tamura S, et al. Clin Immunol. 2015;160:255-60.)に報告。

*3 CRISPR-Cas9:DNAの特定部位を切断し、遺伝子配列を改変するゲノム編集技術。

*4 RAG2:T細胞受容体や抗体の遺伝子再構成に必要な酵素。欠損するとT細胞・B細胞が生成されない。

*5 Th1細胞:CD4陽性T細胞の一種で、IFN-γなどを産生してマクロファージなどを活性化し、感染防御や炎症反応に関与する。

*6 T細胞受容体レパトワ:様々な抗原をT細胞が認識するために持つT細胞受容体の膨大なコレクション。

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