がん細胞だけを狙わない 新しい卵巣がん治療への挑戦

| 日時 | 令和8年7月15日(水)14時00分~14時40分 |
|---|---|
| 場所 | 生涯研修センター研修室 |
| 発表者 |
本学医学部 産科・婦人科学講座 講師 堀内優子 |
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概要
卵巣がんは、女性に発生するがんの中でも治療が難しい病気の一つです。その理由として、初期には自覚症状が少なく、発見された時にはすでにお腹の中に広がっていることが多いことが挙げられます。また、手術や抗がん剤治療を行っても再発する場合があり、これまでとは異なる新しい治療法が必要とされています。
これまで、がんの研究では「がん細胞そのもの」を攻撃する治療が中心でした。しかし最近では、がん細胞の周りに存在する正常な細胞が、がんの成長を助けていることが分かってきました。本研究では、その中でも本来は体を守るはずの免疫細胞である「マクロファージ」に注目しました。マクロファージは細菌などを排除する大切な細胞ですが、がんの近くでは性質が変わり、逆にがんの増殖や広がりを助けてしまうことがあります。
私たちは、マクロファージをがんの周囲へ呼び寄せる仕組みの一つである「CX3CL1–CX3CR1」という目印に着目しました。卵巣がんの患者さんの組織やマウスを用いて調べたところ、この仕組みによって集まったマクロファージが、がん細胞が広がりやすい環境を作っていることが分かりました。
さらに、このCX3CR1の働きを抑えたマウスでは、お腹の中へのがんの広がりや腹水の増加が少なくなり、生存期間が延びることを発見しました。
今回の研究により、卵巣がんでは「がん細胞だけを狙う」のではなく、「がんを助ける周囲の環境を変える」という新しい治療の可能性が示されました。将来的には、この仕組みを利用することで、再発や進行した卵巣がんに対する新しい治療法の開発につながることが期待されます。
1.研究背景と目的
卵巣がんは、初期には症状が少なく、発見された時にはお腹の中に広がっていることが多いため、治療が難しいがんの一つです。これまでの治療は主に「がん細胞そのもの」を標的としてきましたが、近年、がん細胞の周囲に存在する細胞が、がんの成長や転移を助けていることが分かってきました。そこで本研究では、本来は体を守る役割を持つ免疫細胞「マクロファージ」に注目しました。特に、マクロファージをがんの周囲へ集めるCX3CL1–CX3CR1という仕組みが、卵巣がんの進行にどのように関わるのかを明らかにし、新しい治療法の可能性を探ることを目的としました。
2.研究方法と結果
本研究では、卵巣がん患者さんの組織、卵巣がん細胞、卵巣がんモデルマウスを用いて、がんの進行に関わる仕組みを詳しく調べました。その結果、卵巣がんの周囲にはCX3CR1という目印を持つマクロファージが多く集まっていることが分かりました。さらに、このマクロファージはMMP-2やTGF-βという物質を作り出し、がんが広がりやすい環境を作っていました。一方、CX3CR1の働きをなくしたマウスでは、マクロファージの集まりが減少し、お腹の中へのがんの広がりや腹水の増加が抑えられ、生存期間も延長しました。つまり、がんを助けるマクロファージを制御することで卵巣がんを抑えられる可能性を示しました。

3.研究の意義とまとめ
本研究により、卵巣がんでは、がん細胞だけではなく、その周囲に集まるマクロファージが、がんの成長や広がりを助けていることが明らかになりました。特にCX3CL1–CX3CR1という仕組みを介して集まるマクロファージが、卵巣がんの進行に重要な役割を果たしていました。この働きを抑えることで、がんの広がりや腹水の増加を防げる可能性があります。今回の発見は、従来の「がん細胞を攻撃する治療」に加えて、「がんを育てる環境を変える」という新しい治療法の開発につながることが期待されます。
4.論文情報
論文名:CX3CR1-Dependent Macrophages Drive Ovarian Cancer Progression Through MMP-2 and TGF-β Production
著 者: Yuko Tanizaki-Horiuchi1,2, Yuko Ishida1, Aya Kobayashi2, Tamaki Yahata2, Yumi Kuninaka1, Saori Toujima2, Mizuho Nosaka1, Reiko Matsuki1, Akihiko Kimura1, Mika Mizoguchi2, Naofumi Mukaida1, Kazuhiko Ino2, Toshikazu Kondo1
1 Department of Forensic Medicine, Wakayama Medical University, Wakayama, Japan
2 Department of Obstetrics and Gynecology, Wakayama Medical University, Wakayama, Japan
掲載誌:Cancers (2026年6月5日出版)
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