「見えなかった心臓突然死」を見える化

― 分子マーカーで死因診断が進化 ―

見えなかった心臓突然死を見える化

日時

令和8年3月25日(水)10時00分~10時30分
場所 生涯研修センター研修室
発表者 本学医学部 法医学講座    教授 近藤稔和
            特別研究員 國中由美

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概要

 突然死の多くは心臓の異常が原因とされていますが、実際の解剖でははっきりとした異常が見つからず、死因の特定が難しいケースが少なくありません。特に発症から短時間で亡くなった場合、心臓の変化が目に見える形で現れにくく、これまでの方法だけでは十分な判断ができないことが大きな課題となっていました。

 本研究では、心臓が受けたダメージの痕跡と、心臓にかかった負担のサインという2つの異なる情報に注目し、それらを組み合わせて評価する新しい診断方法を検証しました。心臓の細胞に残る微細な変化と、血液中に現れる心臓への負担の指標を同時に調べることで、従来は判断が難しかった突然死の原因を、より客観的に推定できる可能性が示されました。

 その結果、解剖や顕微鏡による観察だけでは確定が困難であった症例においても、分子レベルの情報を補助的に用いることで、死因診断の信頼性が向上することが明らかになりました。これにより、突然死の原因究明における不確実性を減らし、より正確な判断につなげられることが期待されます。

 本手法は、法医学分野における死因究明の精度向上にとどまらず、突然死の実態把握や医療現場への知見の還元にも貢献する可能性があります。突然死の原因をより正確に把握することは、再発予防策の検討や医療体制の改善にもつながり、社会全体の安全性向上にも寄与します。

 本研究成果は、目に見えにくい心臓の異常を「分子レベル」で捉える新たなアプローチとして、今後の死因診断の標準化や医療と法医学の連携強化に貢献することが期待されます。

1.研究背景と目的

 突然死の多くは心臓のトラブルが原因とされていますが、解剖を行ってもはっきりした異常が見つからず、死因が分からないままになるケースが少なくありません。特に発症から短時間で亡くなった場合、心臓の変化が目に見える形で現れにくく、これまでの方法だけでは正確な判断が難しいことが課題でした。そこで本研究では、心臓が受けたダメージの痕跡と、心臓にかかった負担のサインという2つの情報に注目し、これらを同時に調べることで、突然死の原因をより分かりやすく、より正確に見極める新しい方法を確立することを目的としました。

2.研究方法と結果

 本研究では、司法解剖で得られた心臓突然死の症例を対象に、心臓の細胞に残るダメージの痕跡(図1.8-OHdG)と、血液中に現れる心臓への負担のサイン(図2.NT-proBNP)を調べました。心臓の組織を特殊な方法で染色し、細胞レベルの変化を詳しく観察するとともに、血液検査によって心臓にかかった負担の指標を測定しました。その結果、心臓が原因と考えられる突然死の症例では、これら2つの指標がいずれも高くなる傾向が確認されました。さらに、従来の解剖所見だけでは判断が難しかったケースでも、これらの情報を組み合わせることで、心臓由来の死因をより正確に推定できる可能性が示されました。

図1

   図2

3.研究の意義とまとめ

本研究は、これまで解剖だけでは判断が難しかった心臓突然死の原因を、分子レベルの情報を用いてより正確に見極める新しい道を示しました。心臓が受けたダメージの痕跡と心臓への負担のサインという異なる2つの情報を組み合わせることで、死因診断の信頼性を高められる可能性が示された点が大きな成果です。これにより、突然死の実態解明が進むだけでなく、医療現場への知見の還元や再発予防策の検討にもつながることが期待されます。

また、死因をより正確に明らかにすることは、遺族の方々にとって納得のいく説明につながるだけでなく、社会全体の安心にも寄与します。本研究で示された新たな診断アプローチは、今後の法医学と医療をつなぐ重要な技術として発展が期待され、突然死の原因解明に新たな可能性をもたらす成果といえます。

4.論文情報

論文名:8-OHdG and NT-proBNP as complementary biomarkers in the postmortem diagnosis of acute ischemic heart disease

著 者: Yumi Kuninaka, Yuko Ishida1, Federica Grimaldi, Marco Irmici, Mizuho Nosaka, Momoko Munekawa, Susi Pelotti, Paolo Fais, Toshikazu Kondo

掲載誌:Scientific Reports (2026年2月19日にオンライン公開されました)

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