VRによる自宅仮想現実映像を用いた緩和ケアへの応用
発表日時 |
令和5年8月28日(月)10:30~11:30 |
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場所 |
生涯研修センター研修室 |
発表者 |
本学 産官学連携推進本部 産官学連携センター |
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ポイント
- 新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、入院患者は家族との面会が制限され、家族との関係性が希薄な状態が余儀なくされました。
- 和歌山県立医科大学の腫瘍センター緩和ケアセンターを中心に、がん患者に対するICT技術を応用した緩和ケア推進に関する共同プロジェクトチームを立ち上げました。
- 本研究は患者が自宅や職場などの入院前に日常であった環境に移動し、家族・友人とリアルタイムに会話しているような仮想現実環境をAR/VR技術を用いて提供することで、自宅仮想現実映像を用いた緩和ケアプログラム提供後に「入院生活の気持ちの辛さの緩和」についてインタビューを実施し、プログラムの有用性と実行可能性を明らかすることを目的としました。
- 結果、自宅仮想現実映像を用いた緩和ケアプログラムを提供することで、入院生活の辛さが緩和することが明らかとなりました。
1.背景
新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019:COVID-19)の世界的流行により、入院患者は家族との面会が制限され、家族との関係性が希薄な状態が余儀なくされ、患者の社会的孤立が蔓延するという前例のない状況が生じました。このことは、がん患者の生活の質を悪化させ家族ケアの点でも十分とは言えず、患者の心身に大きく影響することが推察されました。また、がん患者等では、新型コロナウイルス感染により重症化するリスクが高いことが知られており、感染リスク低減のための面会制限措置と患者と家族の繋がりを大切にするケアの両立は急務でした。近年、情報通信技術(Information and Communication Technology:ICT)のなかでも拡張現実(Augmented Reality:AR)・仮想現実(Virtual Reality:VR)など、仮想の世界をより現実的に体験できる技術が発展しています。
我々は、和歌山県立医科大学の腫瘍センター緩和ケアセンターを中心に、がん患者に対するICT技術を応用した緩和ケア推進に関する医学部・保健看護学部・薬学部(医・看・薬)で構成する共同プロジェクトチームを立ち上げました。我々のチームはAR/VR技術の緩和ケアへの応用に際して、患者にとっての非日常環境を新たに仮想体験することではなく、日常環境に戻る仮想体験が患者満足度に繋がると考えています。
すなわち、患者が自宅や職場などの入院前に日常であった環境に移動し、家族・友人とリアルタイムに会話しているような仮想現実環境をAR/VR技術を用いて提供します。これにより、がん患者自身が社会とのつながりを感じた結果、身体的苦痛・心理的苦痛を軽減することが最終目的です。
そこで今回、我々は、上記最終目的を達成する前段階として、がんに対する治療または療養のため長期入院している患者に対して、既存のVRデバイスおよび既存の通信技術を応用した新たな緩和ケアプログラム「入院患者に対する自宅仮想現実映像を用いた緩和ケアプログラム」を提供する取り組みを開始しました。このプログラムは、患者の家族に3Dカメラを使って、自宅や患者が訪れたい場所の動画を撮影してもらい、録画した動画をVRゴーグルを通して患者に見てもらいます。録画されたビデオを患者と家族が同時に視聴しながらコミュニケーションを取ることで、患者と家族のつながりを促進するものです。本研究の目的は、「入院患者に対する自宅仮想現実映像を用いた緩和ケアプログラム」が提供される患者に対して、初回プログラム提供後の「入院生活の気持ちの辛さの緩和」についてインタビューを通して、このプログラムの有用性と実行可能性を明らかにすることを目的としました。
2.研究成果
テキスト全体から共起関係にあることばをまとめて、クラスターに分類しました(図1)。抽出された語の頻度は円の大きさで、関連性(共起性)は線のつながりとして視覚的に示しています。分析の結果、「家族を近くに感じる安心感による入院生活の辛さの緩和」、「日常を取り戻すためのVRの活用」、「家族と同じ空間にいるような没入感」、「VR体験により家族との別れをリアルに感じる孤独感」の4つのクラスターが抽出されました。
VR視聴により、<家族と近くに居ると感じて安心>し、<気持ちの辛さが緩む>という心理的な変化を示しました。さらに、患者は自宅以外にも仕事場の動画視聴を希望しており、非日常な体験ではなく、思い出の場所や、家族や同僚と過ごした日常を取り戻す体験を希望しました。また、同時に電話でコミュニケーションを取ることで、家族と同じ場所に居るかのような没入感を感じ、タブレット越しでは補えない時間と空間の共有というリアルなつながりを実感し、普段以上にコミュニケーションが促進されました。一方、自宅映像に患者自身が居ないことで、帰りたくても帰れない現実をリアルに感じ、淋しさを表出する場合もありました。VR酔いの出現はありませんでした。
結論:プログラムに参加した対象者に「入院生活の気持ちの辛さの緩和」について調査した結果、自宅仮想現実映像を用いた緩和ケアの有用性が明らかとなりました。
3.今後の展開
本研究の成果は今後、数年ごとに発生するであろう新興感染症の世界的流行期においては、入院患者と社会との繋がりを確固にする技術を提供することが可能になると考えています。さらに、コロナ禍の医療や緩和ケアのみならず多くの医療分野に応用可能であり、例えば、過大侵襲の手術後に長期間の入院が必要である患者、老健施設や高齢者サービス住宅に入所する高齢者とその家族をつなぐ技術としても応用が可能であると考えています。今回の研究では、録画した映像を用いてVR体験をしたため、家族との双方向のコミュニケーションができないという課題がありました。現在は、自宅とリアルタイムにコミュニケーションが取れるように、遠隔操作ができる小型の分身ロボット、次いで患者が操作して家庭内を移動できるように新規のロボットにカメラを付ける等、自宅での移動や家族との直接のコミュニケーションを可能にする取り組みを進めています。現在、5G環境の整備は全国的にも進められていますが、まだ十分とは言えず、今後のネットワーク環境の発展に期待しています。本構想は、緩和ケアのプログラムの一環としてICT技術による仮想現実環境を提供するにとどまらず、多くの医療分野できわめて有用な医療ツールとなり得ると考えています。
4.用語説明
・テキストマイニング:自然言語処理技術を用いて大量のテキストから、よく出現する単語や特徴語を解析し、有益な情報を抽出する手法である。
5.発表雑誌
Tomoyo Mukai、 Yoshi Tsukiyama、 Shinobu Yamada、 Akinori Nishikawa、 Shinya Hayami、
Rie Noguchi、 Junko Yoshida、 Maki Kashiwada、 Shigeru Ohta、 Toshio Shimokawa、 Hiroki Yamaue.
“Virtual Reality Images of the Home Are Useful for Patients with Hospital-Based Palliative Care: Prospective Observational Study with Analysis by Text Mining”
Palliative Medicine Reports. 2023、 4(1)、 DOI: 10.1089/pmr.2023.0017 Accepted July 13、 2023
6.本論文著者
和歌山県立医科大学
向友代看護師長、月山淑准教授、山田忍准教授、西川彰則准教授、速水晋也講師、野口理恵看護師長
吉田純子副看護師長、柏田真希副看護師長、太田茂教授、下川敏雄教授、山上裕機教授
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