小児後天性心臓病の最大原因である川崎病の新たな治療法を開発!

~ゲノム医学研究の結果から着想、小児に負担が少なくより効果的な治療が可能に~

発表日時 2019年3月29日 14:00~14:30
場所 和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)
発表者 医学部小児科学講座 教授 鈴木 啓之
          講師 武内 崇
          助教 末永 智浩
          助教 垣本 信幸

発表資料データダウンロード

発表内容

概要

千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学 羽田 明 教授、尾内 善広 准教授、医学部附属病院臨床試験部 花岡 英紀 教授、和歌山県立医科大学小児科 鈴木 啓之 教授、東京女子医科大学八千代医療センター小児科 濱田 洋通 臨床教授らの研究グループは、小児期の後天性心臓病の最大原因となる川崎病に対する大量免疫グロブリン (IVIG) による標準治療をシクロスポリン (CsA) で強化した新たな治療法を開発した。
この研究成果は3月7日に英国科学誌「Lancet」オンライン版に掲載された。

※川崎病とは

小児に多い全身の血管に炎症を起こす病気で、発熱や発疹などの症状を呈する。1967年に日本の小児科医、川崎富作博士により、それまで認識されていなかった新しい病気として世界で初めて報告され、現在日本では年間1万5千人以上が発症している。多くは治療により症状が治まるが、重症例では心臓の栄養血管である冠動脈に、心筋梗塞による死亡の原因にもなりうる瘤(りゅう)などの病変が形成され、生涯にわたる後遺症となることがある。 IVIGとアスピリンの内服による標準治療が有効だが、患児の10~15%はこの治療に十分反応せず(IVIG不応)、冠動脈病変形成のリスクが高くなる。
川崎病が起きる原因は依然不明だが、ゲノム研究により川崎病の発症と重症化に関わる遺伝的素因が明らかになりつつある。

背景:基礎研究から臨床研究への橋渡しにより行われた研究

この研究に先立ち研究グループが行った遺伝的素因の研究から、川崎病が発症、重症化するメカニズムにITPKCとCASP3という遺伝子のバリアント(生命の設計図である遺伝子の暗号にヒト集団内でみられる多様性のこと)が関わることが判明した。以前からネフローゼ症候群などの治療に使われていたCsAには、そのメカニズムを抑える作用がある。CsAは重症化を抑制する切り札となり得ると考え、CsAの使用経験が豊富な小児科医が中心となって、重症川崎病患者にCsAを使った臨床試験を計画した。

遺伝的素因の関与を示す疫学データ 他

医師主導治験:小児領域では希少な医師主導治験(KAICA Trial)を世界に発信

北海道から沖縄まで全国22施設の臨床経験豊富な小児科医と、臨床研究中核病院である千葉大学病院のARO部門臨床試験部がタッグを組み、2年間をかけて医師主導治験を展開した(KAICA Trial)。
医療機関を受診し川崎病と診断された主に0−1歳児1,815名のうち、臨床試験の基準に適合し保護者の同意を得た175名に協力いただいた。試験は厚労省への承認申請を目的として薬機法(GCP)下で実施され、データの品質管理や効果安全性委員会、心エコー判定委員会など第三者による検証作業も行われた。

全国22施設

KAICAトライアルの概要

成果
  1. 標準治療をCsAで強化することにより冠動脈病変発生リスクを0.46倍に抑制できた。
  2. 発熱もCsA強化療法でより早く治まった。
  3. 標準治療との間に安全性の大きな違いはなかった。
主要評価項目 IVIG+CsA IVIG リスク比(95%信頼区間)
試験期間中(3ヶ月)の冠動脈病変発生頻度 14% 31% 0.46 (0.26‒0.85)*

→冠動脈病変を抑制

副次評価項目 IVIG+CsA IVIG リスク比(95%信頼区間)
初回治療への不応率 17% 37% 0.49 (0.29‒0.82)*
安全性評価項目 IVIG+CsA IVIG リスク比(95%信頼区間)
重篤な有害事象の頻度 9% 7% 1.03 (0.94‒1.11)**

* 有意差あり、** 有意差なし

川崎病の新たな治療法となるシクロスポリンによる強化療法は、少量の液状内服薬を5日間服用するのみの、小児にやさしい治療である。高価な薬剤ではなく、この治療による入院期間の延長はない。
現在、保険適用の認可申請を準備している。

国立大学法人 千葉大学
公立大学法人 和歌山県立医科大学
私立大学法人 東京女子医科大学

このページの先頭に戻る