研究概要

和歌山県立医科大学麻酔科学教室 教授
畑埜 義雄 先生

和歌山県は、がんによる死亡者が年間3000人を越え、人口10万人当り238人で、全国には第5位がガン死亡者が多い都道府県である。しかしながら、がん性疼痛に対するモルヒネの使用量は1986年 WHOの指針がでているにも拘らず、1999年、全国的には43位、108の大学附属病院の中では100位で、和歌山県のがん患者は充分と言える疼痛管理を受けていないのが現状であった。県内では1998年に和歌山緩和ケア研究会が発足し、また、1999年には県立医科大学の総合移転と同時に、緩和ケア病棟が開設された。これは全国の国公立大学では初めてのことであり、以後、和歌山県立医科大学が中心となって、研究会を通じてがん性疼痛に対するモルヒネ使用の啓蒙活動をおこない、2003年には全国都道府県では22位に、そして大学附属病院としても51位にまで上昇した。このことは県内では教育と啓蒙活動が効果を示すことを現している。

一方、がん性疼痛に対する薬物療法に進歩が見られても、県下の承認された緩和ケア病床は県立医科大学の緩和ケア病棟の9床しかなく、決して和歌山県のがん患者の多くを収容できるものではない。さらに、病院側の事情として基幹病院では、経営上の問題から、在院日数を短縮し、もはや治療が不可能となった末期患者を在宅へ移行せざるを得ない事情がある。また、県下では一般病院や医院において必ずしも緩和医療教育を受けた医師が対応しているわけではなく、県下のがん患者が行き届いた終末期医療を受けているわけではない。告知されたがん患者の50〜70%は自宅での終末を希望していると言われているが、自宅での介護に対する患者とその家族の不安は強く、また、かかりつけ医師、訪問看護センターにおいても経験がないことから、がん患者の終末期の在宅看護を敬遠する傾向にあり、在宅医療支援体制ができていないのが現状である。われわれの調査では、県下でがん患者の看護、介護を在宅で行なっている看護センター施設はごく僅かに認められるが、医院、あるいは看護ステーションが個々におこなっているもので、開業医ー看護センター間、医院間の情報交換、その連携は全くない。

このプロジェクトの目的は、インターネットを利用して、和医大緩和ケア病棟の医療者用ホームページを開設し、これを軸として、大学病院ー開業医ー訪問看護ステーションとのネットワークを構築することにより、在宅療法における患者および患者の家族を身体的・精神的にサポートし、望ましい在宅末期医療を提供することである。必要があれば症状緩和(がん性疼痛を主とする)の適切なアドバイスを提供したり、緩和ケア病棟もしくは患者宅から近距離の病院への紹介などを行う。開業医・訪問看護師による患者情報を元に、和歌山県におけるがん末期患者の実態を調査し、それぞれの問題を分析し、問題を解決し、ネットワークを拡大する。また、市民への教育を通して、在宅医療の可能性についての啓蒙を行ない、和歌山県のがん終末期医療を充実させることである。われわれのがん性疼痛に対する麻薬使用に関する実績を踏まえ、このプロジェクトも必ず有効に機能すると確信している。