海外基礎配属留学を終えて
3年 一瀬 美貴乃
私は、ドイツのバイエルン州ミュンヘンにあるLudwig-Maximilians-Universität München法医学研究所(LMU法医学研究所)とイタリアのエミリアロマーニャ地方モデナにあるモデナ大学法医学研究所において、1カ月半ずつの計3カ月間にわたって基礎配属研究をさせていただきました。この3カ月で学ばせていただいたことや経験させていただいたことについて紹介します。
ドイツの法医学研究所の生活は、毎朝ミーティングをして一日が始まりました。午前中は、生体鑑定に立ち会ったり、そこで採取したサンプルを後日顕微鏡で観察したり、裁判所へ見学に行ったり、薬物の分析をしている部署の説明を受けたり、飲酒運転や薬物使用疑いのある人の採血や身体テストに立ち会ったりと多岐にわたる仕事に関わらせていただきました。午後は毎日解剖に参加させていただき、様々な症例を目の当たりにしました。地理的そして社会的な理由からか人種も様々で、自殺、交通事故死、医療過誤疑いの症例もありました。また、日本では少ない銃による自殺や、安楽死の症例もありました。特に印象的だった症例は、土葬されたご遺体を発掘しての解剖です。ドイツでも火葬は行われるそうですが、土葬と異なりご遺体の発掘ができないなどの理由から、州によって火葬に関する法律が異なることなども教えていただきました。日本の火葬の文化の中で育った私にとっては、一度埋葬されたご遺体を解剖するという概念自体が全く新しいもので衝撃的でした。また、その他の空き時間ではLMU研究所の膨大な量の解剖データから複合自殺について統計を取り、特徴や傾向を調べました。医師は若手の女性が多く、皆さんとても気さくで、解剖中に質問すると丁寧に教えて下さり、実践的な技術についても多くのことを経験させていただき、学ぶことができました。臓器の切り方や、解剖の進め方は日本と異なる点もありましたが、解剖中に注目していることや探していることは何なのか考えると共通点も多く見つけました。また、ドイツではポツダムで行われた学会で「Two cases of sudden unexpected death due to sigmoid volvulus」の症例例報告を行いました。
イタリアでは、症例報告の論文執筆を中心に様々なことをさせていただきました。内容は、精神疾患の患者がオレンジを丸呑みしたことによる自殺疑いについて扱いました。他の類似症例や窒息についての論文を読んだり、研究所のメンバーにアドバイスをもらったりしながら仕上げました。また、法医遺伝学や法医薬物学のラボでDNAや薬物の分析について説明を受けたり、実際に自分のDNA分析をしたり、解剖に入ったり、多くのことを経験させていただきました。解剖数はドイツよりも少なく時間帯も日によって様々で朝のこともあれば、午後からの日もありました。手技も、ドイツとは大きく異なり、2カ国行かせていただいたことで、比較することができました。
私は、この留学を通して国による法医学の在り方の違いを感じました。LMU研究所はドイツにある法医学研究所の中で最大規模ということもあるかと思いますが、仕事が細分化され、法医学者の数も多く、警察とも密接に関わり、生体鑑定が多く行われていることが日本と大きく異なると感じました。虐待の子供や性犯罪被害者の生体鑑定、飲酒運転や薬物乱用で採血や身体テストを行っているのを実際に目にしたことで「法医学は、法治国家において不可欠な学問である」という事実を改めて実感しました。また、解剖では解剖学に留まらない多くの知識が常に要求され、これに加えて時間との勝負という切迫している状況下で、精密な技術も必要になります。法医学者の仕事は、解剖だけでなく、裁判での証言や生体鑑定、組織の分析、研究など多岐に渡り、とても興味深く高度で緻密な学問だと思いました。法医学という学問に出会い、そしてドイツとイタリアで法医学の学びを深めることができ、本当に良かったです。
最後になりましたが、今回このような素晴らしい留学そして学会発表の機会を下さった近藤先生をはじめとする法医学教室の皆様方、ドイツでお世話になったGraw先生、Eberle先生、Wolfgang先生、研究所の皆様方、そしてイタリアでお世話になったCecchi先生と研究所の皆様方に厚く御礼申し上げます。今後もこの3カ月の経験を活かし、精進して参ります。本当にありがとうございました。