LMU法医学研究所での基礎配属研究

和歌山県立医科大学医学部3年
冷水詩音

   私は、約2か月間ドイツのバイエルン州にあるLudwig-Maximilians-Universität München法医学研究所(以下「LMU法医学研究所」)で、基礎配属研究をさせていただきました。この留学期間中、私がLMU法医学研究所で学ばせていただいたことについて簡単に紹介できたらと思います。
  まず初めに、日本とドイツにおける法医学の在り方の違いについて少しお話したいと思います。日本では法医学と聞くと司法解剖をイメージされる方が多いと思いますが、ドイツでは臨床法医学の側面が強く、司法解剖だけでなく生体鑑定が行われたり、鑑定人として裁判所に出向いたりする機会も少なくありません。生体鑑定とは、児童虐待や性犯罪を受けた方々を診察し、損傷が出来た時期や程度、原因を医学的に評価する臨床法医学の分野です。また、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国では、医学的に死因が特定されない限りは犯罪の疑いが残るとして多くの異常死が解剖されることから、解剖数にも大きな違いがあります。そのため、規模も非常に大きくLMU法医学研究所にはたくさんの法医学者がいて、シフト制で診察や解剖を担当しているのが印象的でした。
   ここからは、私がLMU法医学研究所で何をしていたのかをお話しできたらと思います。実際に私もあらゆるケースの生体鑑定に立ち会わせていただきました。生体鑑定は、研究所内の診察室で行うだけでなく、法医学者が被害者の入院している病院へと出向いて診察する場合もあります。また、小児虐待カンファレンスへの参加や、LMUの法医学セミナーや講義に参加させていただいたほか、飲酒運転や薬物常用者の採血、難民・移民の年齢推定鑑定、裁判での証言にも立ち会わせていただき、日本との社会的背景の違いを身をもって実感しました。毎日、午後からは解剖に参加させていただき、たくさんの症例を目の当たりにしました。日本では目にすることの少ない銃による自殺、他殺やドラッグによる中毒死の症例をはじめ、2か月間で約150例の解剖に参加させていただき、非常に貴重な学びの時となりました。解剖以外の時間、診察や講義がないときは、児童虐待に関する生体鑑定の鑑定書を読み、ドイツと日本の事例を比較しながら統計を取らせていただきました。
   ドイツに留学し、LMU法医学研究所で学ばせていただいて私が一番感じたことは、法医学がとても勉強になる魅力的な分野だということでした。死因は多岐にわたるわけですから死因の特定には言わずもがな非常に幅広い知識が求められます。解剖学や法医学の知識はもちろん、病理学、微生物学、薬理学、そのほか臨床に関するたくさんの知識が必要です。私自身、もっと他の分野の教科書を持ってくればよかったと後悔するほどでした。法医学を学ぶことは医学全体を学ぶことにつながると思います。また、日本との死因の違いなどから、法医学と社会の結びつきをより深く感じ、社会的な背景をよく反映している法医学がさら
に面白いと感じました。
   最後に、留学に際して私が準備したこと、苦労したことなどをお話ししたいと思います。 日常の英会話のみならず解剖学の英単語を復習し、解剖に関するコミュニケーションが英語でとれるよう少し準備をしました。研究所内でのコミュニケーションは基本的に英語でしたが、臓器名や解剖学用語のドイツ語が少しでも分かると学びがより多くなると思います。また、私自身解剖の手技が儘ならない状態での留学だったため、法医学で留学を希望される皆さんは、少しでも早くM.D-Ph.Dコースに登録して研究室に通い、解剖手技を少しでも学ばせてもらうことをお勧めします。
   2か月という短い期間でしたが、今回留学させていただくことで、法医学の魅力はもちろん、海外における医療の在り方や社会的な背景の違いまで、日本では決して知り得ない物事を見聞きし、感じ、見聞を広めることができたと感じています。留学に少しでも興味があるというみなさんには、ぜひ挑戦していただきたいです。
   最後になりましたが、このような素敵な留学の機会を与えてくださった近藤先生、留学をサポートしてくださった改正先生、国際交流センターのみなさん、そして留学中大変お世話になりましたLisa先生はじめLMUのみなさまに改めて心より感謝申し上げます。ドイツで吸収したことを活かし、今後の学びをより充実させられるよう邁進してまいります。本当にありがとうございました。

法医学研究所外観

写真1:法医学研究所 外観

解剖室

写真2: 解剖室

Münchenの中心地Marienplatz

写真3:Münchenの中心地Marienplatz

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