小児糖尿病キャンプに参加して

和歌山県立医科大学 保健看護学部
2年 岩根朱里         

キャンプの概要
    今回私は、アメリカ・マサチューセッツ州で行われているバートン糖尿病教育センター主催の小児糖尿病患者対象のサマーキャンプに参加した。7月28日から男児を対象としたジョスリンキャンプに滞在し、8月2日の朝に女児を対象としたクララバートンキャンプに移動し、8月4日にキャンプを出発し空港へ向い帰国した。キャンプに参加していたのはⅠ型糖尿病を持つおおよそ5歳から15歳までの子供たちであり、マサチューセッツ州だけでなくアメリカ全土、またカナダなど幅広い地域から集まって来ていた。子供たちのキャンプに参加する日程は最短1週間から4週間まで様々であった。
このキャンプでは運動、食事、課外活動などを共に行う中で同じ疾患を持つ仲間と交流し、絆を深め合うことが目的とされている。1回だけの参加ではなく、毎年参加しているという子供たちも多く、とてもこのキャンプを楽しんでいた。指導するスタッフやボランティアもほとんどがこのキャンプの卒業生であるため、子供たちの気持ちを理解しやすく、またキャンプに対して尊敬の念を抱いていた。

キャンプでの生活
   キャンプでは1日の基本的なスケジュールは定められているが、その内容はスタッフの工夫により毎日違うものになっている。また、ジョスリンキャンプとクララバートンキャンプでも内容は大きく異なっていた。1日のスケジュールの中にはFast activeからEvening activeまで4回の遊びの時間があり、チームになりみんなで身体を動かし、キャンプ地の森に生息する動物を実際に観察しながらそれらの動物について学ぶ自然教室や水泳、ダンス、スタッフによるレクリエーションなどが行われていた。子供たちの体調を管理するためにその場には必ず看護師1名が付き添っていた。
   血糖値測定は日々のあらゆる場面で行われていた。全員が共通して行うのは毎食事前、1日2回のスナックタイム前であり、日中の血糖値コントロールが不良であった場合には夜中の12時と3時に看護師が血糖値測定を行う。また活動中にも子供たちが自分の体調によって適時血糖値測定を行い、スナックやタブレットなどで低血糖を補正する。アメリカではインスリンポンプを使っている子供が多く、食事量に合わせたインスリン量を血糖値測定の後、コンピューターを使い自分で計算することが可能である。キャンプではスタッフや看護師と一緒に炭水化物の計算を行い、ダブルチェックしていた。キャンプでの献立は栄養士によって決定され、それぞれに含まれる炭水化物量の表をスタッフで共有することで、子供たちの希望と血糖値に応じた食事、インスリン投与に役立てられていた。
    私たちはスタッフの方々に血糖値測定や炭水化物量の計算方法などを教えていただいた。血糖値測定や計算方法などは同じだが、その日の数値や血糖の目標値などは個人ごとに異なり、またその日の活動量によっても異なる。キャンプでの生活だからこそ毎日の献立や活動量を把握しやすいが、子供たちにとって普段の生活の中ですべてを正確に把握することは困難であるように思えた。特に小児の場合は基本的に保護者が計算を行うため、保護者の負担はとても大きいものであると想像できた。多少の誤差は問題ないと看護師の方が教えてくれたが、同じ炭水化物量の食事でも血糖値の上がるスピードが種類によって異なるなど、高血糖、低血糖に注意しながら安全な生活を送るためには、やはり訓練が必要であると感じた。

アメリカの糖尿病治療について
    日本ではインスリン注射が主流であるがアメリカではインスリンポンプが主流である。インスリンポンプのメリットはインスリン投与量の調節が簡単なこと、継続的にインスリン投与が可能なこと、注射に比べ痛みが少ないことが挙げられる。デメリットは常に身体とチューブで繋がったトランプカードほどの大きさのポンプを持ち歩く必要があるため、邪魔である点である。しかしチューブは一時的に取り外すことも可能であるため、激しい運動などをする際には外しておくことが出来る。
    アメリカの糖尿病治療について学ぶために、私たちはキャンプ3日目の午前中にUmass Memorial Medical Centerの糖尿病科を見学させてもらった。そこはアメリカの糖尿病治療の最先端の研究を行っている場所であり、糖尿病患者は3か月に一度通院し、生活に応じた治療方法を更新することが理想とされている。実際は理想とされる頻度で通院することが難しいため、地元のかかりつけ医と病院が連携し、データを更新する方法がとられている。病院には糖尿病性腎症や網膜症に対応出来る設備が整っており、治療はチームで行われるため柔軟な対応をとることが出来るようになっている。また、糖尿病患者を対象とした健康教室が多く開催されており、日頃の食生活や体調管理について学ぶ機会となっている。それでもどうしても自分の責任で生活習慣を改められない人に対しては、行動精神科の医師の指導を受けることが出来るという徹底したプログラムが用意されている。
    病院の隣にあるShermanビルではフロア毎に様々な病気の研究が行われている。7階では糖尿病に関する研究が行われており、だいたい5人のチームに分かれて研究を行い、それぞれの成果を合わせて糖尿病の治療方法や予防方法を研究している。研究では1970年にネズミを用いての実験で糖尿病化したネズミの糖尿病を完治させることに成功しており、人間の糖尿病を完治させることが出来る日も近いうちに来ると担当者の方は話していた。

キャンプに参加して学んだこと
    今回アメリカでの糖尿病児キャンプに参加させていただき、普段の生活とは違う文化の中で多くの人と関わる機会を得ることが出来た。1週間を共に過ごしたⅠ型糖尿病の子供たちはとても明るく、カーボカウントや血糖値測定も自分の生活の一部として受け入れて生活しているように思えた。それはキャンプで同じ病気を持つ友人たちとの絆を深め、何か悩みがある時にも相談し合える関係が出来ていることも要因の一つのように思えた。そのような場を提供しているのは糖尿病センター、ボランティアやキャンプの卒業生などの大人たちであり、様々な機関や人々の連携が子供たちをサポートするためには必要不可欠であると学んだ。
    日本とアメリカで、糖尿病に対して主に使われる器具が異なっていたように、世界には様々な考え方や方法があるため、目の前の人にとって最善のケアを行うためにも広い視野を持ち、自分から取り入れる姿勢が重要であると感じた。さらに自分が普段生活している環境とは全く異なった環境に身を置いたことで、自分の知っていることだけが当たり前でないということを改めて知ることが出来た。今回のキャンプで得たことを糧にこれからの看護学生としての学習や生活に真剣に取り組みたいと思う。

謝辞
    最後にキャンプ参加にあたり、英会話の指導や多くの助言を賜った諸先生方に感謝いたします。また本当に多くの面においてサポートしてくださった職員のみなさん、助成を戴いたトランスコスモス財団様にも厚く御礼申し上げます。

小児糖尿病キャンプ

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