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自己炎症症候群との出会い back to the future


 近年、臓器特異的自己免疫疾患の研究が進み,その本体が解ってきた。一方で、全身性自己免疫疾患あるいは類似疾患として従来取り上げられていた疾患の一部が自己炎症症候群であるとの説がある。自己免疫と自己炎症の異同や類似性を研究する事は新たなアレルギー分野の展開を期待させるものである。私は、主な研究テーマを自己免疫疾患の一つエリテマトーデス発症の機序としてきたが,数年前に自己炎症症候群を勉強する機会を得た。

 大阪の南から和歌山にかけて、特徴ある皮膚および全身性の病態を示す疾患が知られていた。その遺伝性に注目したのが、和歌山県立医科大学皮膚科初代教授西村長応で、60年以上前のことである。その疾患は、乳幼児期に凍瘡様皮疹で発症し,弛張熱や結節性紅斑様皮疹を伴い、次第に顔面・上肢を中心とした上半身のやせと拘縮を伴う長く節くれ立った指趾が明らかになる特異な遺伝性炎症・消耗性疾患である。大脳基底核に石灰化を伴うことも極めてユニークである。経過中、抗DNA 抗体が出現する事が多く、炎症と免疫の二面性を有した稀な疾患である。

 国際的な遺伝疾患データベースMIMにNakajo syndrome(MIM256040)として、さらに稀少疾患データベースORHANETにNakajo syndrome (Nodular erythema- digital changes; ORPHA1953)として登録されていた。症例研究を重ねる内に免疫プロテアソームのサブユニットをコードするPSMB8遺伝子のホモ変異によるプロテアソーム機能不全が本症の本態であることが明らかとなった(Proc Natl Acad Sci USA 108:14914-14919, 2011)。Nakajo-Nishimura症候群の疾患名でAmyotrophy- fat tissue anomaly; ORPHA2615として登録され、最近ではプロテアソーム不全病という新たな疾患概念も提唱されている。

 先天的なプロテアソーム機能不全によって周期性の炎症と進行性の萎縮をきたすことは、プロテアソーム阻害効果の一面を表している可能性がある。もちろん、本症が広義な自己炎症症候群に含まれるのか否かについては疑義もあろうが、重要なことは本症のメカニズムを明らかにすることにより免疫学と炎症をリンクさせる可能性があるということである。

 私個人としては、60年の時空を超えて初代教授の名前を疾患名に残すことが出来たことに、何となく自己満足を覚えている。それと同時に、希な疾患の病態を忠実かつ科学的に記録として残すことの重要性を今更ながら感じている。蛇足ながら、Metchnikoffが炎症論を表してほぼ120年である。

(Metchnikoff E:Leçons sur la pathologie comparée de l'inflammation, faites à l'Institut Pasteur en avril et mai 1891,1892)

      雑誌アレルギー免疫 巻頭言から

古川福実教授

皮膚科前教授:古川 福実

略 歴

皮膚科(和医大70年誌より)

Derma Dream

第114回 日本皮膚科学会総会
学術大会開催にあたって

和歌山県皮膚ガン
無料相談の歴史

自己炎症症候群との出会い

私はなぜ現在の科を選んだか

The art of medicine
-若き心と腕に期待して

皮膚科学は難しくない

研究のススメ

濱島語録

山田瑞穗
浜松医大皮膚科初代教授、元副学長
随筆、左右(とにかく)なんとか過ごしてはきたを掲載しました。

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