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和歌山県皮膚ガン無料相談13年の歴史
  和歌山県皮膚ガン死亡ゼロをめざして


 私が浜松医大に在籍した平成5年から6年間の思い出の一つに皮膚ガン無料相談がある。平成11年に和医大に移った時に、そっくりそのまま和歌山でも行うことにした。ある年は、紀南の会が台風と重なり、一般参加が10名以内で和医大から応援の医師がそれより多いという事もありました。今となってはいい思い出です。石(医師)の上に13年で、そのうち11年の結果を教室の岡本助教が日本臨床皮膚科医会会誌に発表したので,概略を紹介してみます(岡本勝行、金澤伸雄、山本有紀、古川福実、瀬川陽一、森康亮:和歌山県皮膚病無料相談 1999年から2009年の統計、日本臨床皮膚科学会雑誌 27:489-495,2010)。

 和歌山県立医科大学皮膚科学教室では、1999年から毎年、和歌山県皮膚科医会と協力し、『いい皮膚の日』行事として県下2か所(紀北、紀南)にて、一般市民を対象として皮膚ガン無料相談を行っている。本県の相談形式は、静岡県皮膚科医会の様式を参考としている。和歌山県の本邦における皮膚ガンの死亡率は、男性が全国平均の1.249倍と12番目に高い。一方、女性は下位から4番目と低い。このような疫学事実から、本相談は皮膚ガンの早期発見・早期治療を県民に啓発し、最終的には和歌山県における皮膚ガン患者の死亡者数をなくすことを目指している。

皮膚ガン無料相談結果

1.全体症例
 11年間の相談者数は、男性304名、女性570名の合計874名で、男女比は、およそ1:2であった。相談者数は毎年ばらつきがあり、年々増加しているというわけではないが、地域別には和歌山市が586名、紀南地区が288名であった。また、年齢別の相談者でみると、男性は60—80歳代が多く、女性は40—80歳代に多い傾向が見られた。
2.受診のきっかけ
 主な相談項目は、ほとんどが「ほくろ」であり、次いで「しみ」、「しっしん」でした。相談のきっかけとしては、一番多いのが「気になる」30.7%で、次いで「大きくなった」16.3%、「盛り上がった」12.7%、「痒い」9.4%、「新しいものができた」7.4%であった。
3.臨床診断疾患別頻度
医師による相談者の臨床診断は、色素性母斑が最も多く、全体の31.4%で、次いで脂漏性角化症17.3%、湿疹10.5%、老人性色素斑8%などであった。一方、腫瘍性疾患おいては、日光角化症が最も多く56例(4.7%)、基底細胞癌14例、悪性黒色腫3例、有棘細胞癌1例、菌状息肉症2例であった。11年間で、日光角化症を除き、計20名の皮膚悪性腫瘍患者が相談に訪れた。

代表的なアンケート項目(抜粋)

1.皮膚ガン無料相談を何で知りましたか(複数回答可)
和歌山県全体では、新聞51.8%、広報28.4%、家族・知人より8.5%、ポスター6.5%、その他・無回答4.8%であった。毎年、新聞と広報が約80%を占めていた。
2.皮膚癌についてどんなイメージをもっていますか(複数回答可)
 相談者の皮膚癌に対するイメージは、「早期発見し治療すれば大丈夫」27.8%と一番多く、次いで「ほくろが悪性化することがある」25.8%、「恐ろしい」23.0%であった。「早期発見し治療すれば大丈夫」、「ほくろが悪性化することがある」と皮膚癌に対して理解している人が、約半数であった。
 一方、「初めて聞いた」4.9%、「皮膚に癌はできないと思っていた」3.9%、「自分には関係ない」2.2%と皮膚癌に対して理解が十分ではない人も見られた。1999年から2009年を通して、相談者の皮膚癌に対するこのようなイメージに変化は見られなかった。
3.悪性黒色腫という病気を知っていますか(複数回答可)
「知らない」29.1%、「聞いたことがあるがよく知らない」24.4%、「ほくろの癌のことである」14.4%、「皮膚癌の中でもっとも悪性」11.1%でした。1999年からの統計で「知らない」、「聞いたことがあるがよく知らない」をあわせると、半数以上53.5%で認識が不十分であった。和歌山市においては、1999年から2007年までは「知らない」、「聞いたことがあるがよく知らない」と答えた相談者は全相談者の60%以上占めていたが、2008年、2009年では「知らない」、「聞いたことがあるがよく知らない」と答えた相談者は40%と減少していた。徐々であるが、悪性黒色腫が認知されてきている可能性がわかった。
 しかし、予知予防の面から考えると、若年者の悪性腫瘍等への認知度があまり高くないことは問題である。静岡県の報告をみると、20歳代までの30—50%の人が、悪性黒色腫について知らないという結果で、本県の相談では若年者の参加人数が少ないため確定的なことは言えないが,一般的には高年齢層に比して認知度は低いと思われた。このように今後、若年層を中心に皮膚癌に対する正しい知識や予防(紫外線を避けるなど)をより高めることが必要と思われる。

文 献

1) 伏見 操,他:皮紀要92:127-132,1997
2) 伏見 操,他:日臨皮会誌49:230-233,1996
3) Kuroishi T et al:Cancer mortality in Japan (1950-2000),
 Cancer Mortality and Morbidity Statistics,
 Japanese Cancer Association,1-94,2004
4) 岡本勝行他:日臨皮会誌 27:489-495,2010
dermatologic
表1 皮膚科医による臨床診断と疾患別頻度 (1999~2009)
良性疾患 件 数 頻 度
色素性母斑 375 件 31.4 %
脂漏性角化症 207 件 17.3 %
湿疹 126 件 10.5 %
老人性色素斑 96 件 8.0 %
爪白癬 55 件 4.6 %
足白癬 26 件 2.2 %
尋常性疣贅 26 件 2.2 %
爪の色素異常 23 件 1.9 %
粉瘤 15 件 1.3 %
皮膚線維腫 13 件 1.1 %
乾皮症 10 件 0.8 %
アトピー性皮膚炎 6 件 0.5 %
尋常性瘡 5 件 0.4 %
その他 136 件 11.4 %
腫瘍性疾患・皮膚癌と鑑別を要する疾患
日光角化症 56 件 4.7 %
基底細胞癌 14 件 1.2 %
悪性黒色腫 3 件 0.3 %
菌状息肉症 2 件 0.1 %
有棘細胞癌 1 件 0.1 %
合 計 1195 件 100 %
(複数回答あり)
古川福実教授

皮膚科前教授:古川 福実

略 歴

皮膚科(和医大70年誌より)

Derma Dream

第114回 日本皮膚科学会総会
学術大会開催にあたって

和歌山県皮膚ガン
無料相談の歴史

自己炎症症候群との出会い

私はなぜ現在の科を選んだか

The art of medicine
-若き心と腕に期待して

皮膚科学は難しくない

研究のススメ

濱島語録

山田瑞穗
浜松医大皮膚科初代教授、元副学長
随筆、左右(とにかく)なんとか過ごしてはきたを掲載しました。

 
 
 

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