現在表示しているページ
ホーム > 大学案内 > 広報 > パーキンソン病の精神症状を引き起こす脳内ネットワーク異常を解明
ここから本文です

パーキンソン病の精神症状を引き起こす脳内ネットワーク異常を解明

発表日時 令和2年10月6日(火)10:00~10:40
場所 和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)
発表者

脳神経内科学講座 助教 高真守、教授 伊東秀文
生理学第1講座  教授 金桶吉起

発表資料データダウンロード

発表内容

概要

パーキンソン病は、脳内ドーパミン神経の減少により動きの鈍さ、手足のふるえなどが緩徐に進行する疾患である。近年、パーキンソン病は上記の運動症状以外にも、様々な非運動症状が問題となっており、衝動制御障害および衝動性亢進はその一つである。衝動性亢進はパーキンソン病の重大な合併症であるが、その原因・病態生理については未だ不明な点が多い。今回我々はパーキンソン病の衝動性亢進の病態解明のために、安静時機能的MRIを用いて、衝動性に関連した機能的結合性異常の解析を行った。
衝動性の高いパーキンソン病群は衝動性の低いパーキンソン病群に比べて、右前頭頭頂ネットワーク(FPN)と内側視覚ネットワーク(MVN)間の機能的結合性が有意に高かった。さらに下位項目である注意衝動性と無計画衝動性が高いほど、同じ右FPN-MVN間の機能的結合性が高いことが示された。一方で運動衝動性に関しては異なる傾向を示し、運動衝動性が高いほどDMN-SN間の機能的結合性が低下していることが示された。
今回の研究でパーキンソン病の衝動性亢進の背景に,特定の脳内ネットワーク異常が関連していることが示され,今後のさらなる病態解明および局所療法、薬物療法開発の理論的根拠として重要な知見となることが期待される。

1.背景

パーキンソン病は、動きの鈍さ、手足のふるえなどが年単位でゆっくりと進行する疾患である。脳内のドーパミンを産生・放出する神経が少しずつ減少していくことでその症状が出現するが、根本的な原因はわかっていない。10万人に150人程度の有病率とされており、世界中で600万人以上が罹患しており、2040年には1420万人まで倍増すると予測されている。
近年、パーキンソン病は上記の運動症状以外にも、抑うつ、睡眠障害、視覚認知障害、自律神経障害(便秘、頻尿、起立性低血圧)、衝動制御障害など、様々な非運動症状が出現することが問題視されている。その中で衝動制御障害は約13%の患者で認めるとされており、病的賭博、性欲亢進、過食、買い物依存などを含み、さらにその関連症状としてpunding(常動反復動作)、趣味への過剰な没頭、ドパミン調節障害(ドパミン補充療法の過剰な渇望)などが挙げられる。衝動制御障害は非生産的で、有害、さらには違法行為まで引き起こす可能性があり、患者および家族に重大な影響を及ぼす。一方で、最近の研究では明らかな衝動制御障害がないパーキンソン病患者においても衝動的な特性があることが指摘されている。高い衝動性は衝動制御障害の前兆であり、衝動制御障害発症時の重症化に関連しているとされている。パーキンソン病の衝動性亢進に関する脳の病態生理に関しては未だ不明な点が多く、治療法開発のためにはその解明が急務である。
近年の世界的な脳機能研究の流れの中、安静時機能的MRI(核磁気共鳴画像法)による脳機能解析技術が急速に進歩してきており、人間の脳内の様々な大規模ネットワークを再現性高くマッピング出来ることが証明されている。その技術を用いて様々な疾患の脳機能異常を検出できるようになってきている。このような背景の中、今回我々はパーキンソン病の衝動性亢進に関連した脳内ネットワーク異常を、安静時機能的MRIを用いて検出することができたので報告する。

2.研究手法・成果

研究手法

認知機能正常の特発性パーキンソン病患者45人および健常対照者21人を対象として、衝動性の評価と運動・認知機能評価および安静時機能的MRIを施行した。衝動性の評価は、衝動性評価で最も用いられている質問紙Barratt Impulsiveness Scala 11th version(BIS-11)を用いて行った。さらに下位項目としての注意衝動性、運動衝動性、無計画衝動性の評価も行い、それぞれの機能的結合性の特性を調べた。安静時機能的MRI解析は、Statistical Parametric Mapping software, version 12 (SPM12)およびCONN toolbox version 17を用いて、32種類の大規模ネットワーク間の機能的結合性解析を行った。

成果

衝動性の高いパーキンソン病群は衝動性の低いパーキンソン病群に比べて、右前頭頭頂ネットワーク(FPN)と内側視覚ネットワーク(MVN)間の機能的結合性が有意に高いことがわかった。その右FPN-MVN間の機能的結合性は、BIS-11の値と有意な正の相関を示し、さらに下位項目である注意衝動性と無計画衝動性においても同様に有意な正の相関を認めた(図1)。注意衝動性と無計画衝動性は認知衝動性に関連しているといわれており、つまり認知衝動性が高いほど右FPN-MVN間の機能的結合性が強くなっていることがわかった。一方で運動衝動性に関しては異なる傾向を示し、デフォルトモードネットワーク(DMN)と顕著性ネットワーク(Salience Network: SN)間の機能的結合性と負の相関を認めた(図2)。つまり運動衝動性が高いほどDMN-SN間の機能的結合性が低下していることがわかった。大脳基底核と大規模ネットワーク間の機能的結合性には、グループ間で明らかな違いは認められなかった。

図1

図2

3.波及効果

今回の研究でパーキンソン病の衝動性亢進の背景に,特定の脳内ネットワーク異常が関連していることが示された。この結果はパーキンソン病の衝動性亢進における複雑なメカニズムの一側面に過ぎないが,今後のさらなる病態解明および局所療法、薬物療法開発の理論的根拠として重要な知見となることが期待される。

掲載誌

Increased large-scale inter-network connectivity in relation to impulsivity in Parkinson's disease. Sci Rep. 2020 Jul 10;10(1):11418. doi: 10.1038/s41598-020-68266-x.