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記者発表

糖尿病における創傷治癒遅延の分子メカニズム解明と新規治療法開発への挑戦

発表日時 2019年8月2日 14:00~14:30
場所 和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)
発表者 医学部法医学講座 教授 近藤稔和

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発表内容

概要

糖尿病とは、エネルギー源であるブドウ糖を有効活用するホルモン(インスリン)が正常に作用しないため、血糖値が慢性的に高くなってしまうことをいいます。糖尿病では明確な自覚症状がないことによって放置され、病状が進み多くの恐ろしい合併症を引き起します。心筋梗塞や脳梗塞、眼底出血、腎不全になってから不幸にも受診されるケースが未だ後をたちません。糖尿病患者の皮膚病変も重大な合併症の一つです。長期に亘る高血糖状態の持続は、免疫細胞の機能低下や血管や神経が障害されるため、傷の治りが悪くなり、最悪の場合、切断を余儀なくされることもあります。したがって、糖尿病患者の創傷治癒を促進させるような治療法が望まれます。今回我々は、炎症細胞の遊走に関連するケモカインとよばれるタンパク質であるCCL2(単球走化性因子)が、糖尿病患者の創傷治癒を促進させる作用があることを明らかにし、糖尿病における創傷治癒遅延の新規治療法開発のための可能性を示した。

1. 背景

図1糖尿病とは、エネルギー源であるブドウ糖を有効活用するホルモン(インスリン)が正常に作用しないため、血糖値が慢性的に高くなってしまうことである。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる」成人の患者は、2016年時点で推計1000万人を突破し、国民病とも言える。糖尿病では明確な自覚症状がないことによって放置され、病状が進み多くの恐ろしい合併症を引き起します。心筋梗塞や脳梗塞、眼底出血、腎不全になってから不幸にも受診されるケースが未だ後をたちません。糖尿病患者の皮膚病変も重大な合併症の一つです。長期に亘る高血糖状態の持続は、免疫細胞の機能低下や血管や神経が障害されるため、傷の治りが悪くなり、最悪の場合、切断を余儀なくされることもある。したがって、糖尿病患者の創傷治癒を促進させるような治療法が望まれる。したがって、炎症細胞の遊走に関連するケモカインとよばれるタンパク質で、特にCCL2(単球走化性因子)に着目したところ、CCL2が遅延した糖尿病患者の創傷治癒を促進させる作用があることを明らかにしたので、報告することとした。

2. 研究手法・成果

【研究手法】

ストレプトゾトシンで糖尿病を誘発したマウスの背部に直径4mmの打ち抜き損傷を作成し、損傷部にCCL2を局所投与し、創傷治癒における効果を検討した。

【成果】

1)まずはじめに、健常マウスと糖尿病マウスの創傷治癒を比較したところ、健常マウスと比較して、糖尿病マウスでは損傷部局所でのCCL2の遺伝子発現が有意に減弱し、創傷治癒が遅延していた(図2)。 2)さらに、糖尿病マウスでは、受傷後の局所におけるマクロファージや血管内皮前駆細胞(EPC,endothelial progenitor cells)の浸潤、VEGFやTGF-βといった細胞増殖因子の産生が減弱していた(図2)。

図2

次に損傷作成後、CCL2を局所投与された糖尿病マウスでは、対照群(CCL2を投与されていない糖尿病マウス)と比較して、損傷部局所のマクロファージやEPC浸潤が増強して、その結果、創傷治癒が促進していた(図2)。さらに、EPCがCCL2の受容体CCR2を発現していたことから、CCL2のEPCに対する遊走活性を検討したところ、CCL2がEPCの強力な遊走因子の一つであることが判明した。以上のことから、CCL2はマクロファージ及びEPCを損傷部局所に動員することによって、創傷治癒を促進させることが判明した(図3)。

図3

3. 波及効果

CCL2がマクロファージのみならずEPCに対しても走化性を有し、その結果、創傷治癒を促進させることを明らかにした。これらのことは、今後、CCL2が遅延した糖尿病患者の創傷治癒を促進させる新たな治療薬となる可能性を示すことから、新たな治療薬の開発が期待される。

掲載誌

CCL2-mediated reversal of impaired skin wound healing in diabetic mice by normalization of neovascularization and collagen accumulation.
J Invest Dermatol. 2019 Jun 24. pii:S0022-202X(19)31786-5. doi: 10.1016/j.jid.2019.05.022.

<用語解説>

ケモカイン
Gタンパク質共役受容体を介して作用発現をするタンパク質で、白血球などの遊走に関与している。走化性(chemotactic)に関わるサイトカイン(cytokine)なのでケモカインと呼ばれている。

CCL2
CCL2はCCケモカインの一種で、別名MCP-1とも言われる。単球、マクロファージ、線維芽細胞、ケラチノサイトなどで産生され、CCR2というレセプターを有する単球、NK細胞、T細胞、好塩基球、樹状細胞に作用する。マクロファージの活性化や好塩基球からのヒスタミン遊離、Th2反応増強などの効果を発揮する。

EPC(血管内皮前駆細胞)
血液中のCD34陽性細胞中に存在し、新生部の血管構造に取り込まれることで血管新生に貢献する性質を有する細胞分画として当初同定された。

和歌山県立医科大学法医学講座 近藤稔和・石田裕子
金沢大学がん進展制御研究所 向田直史