筋萎縮性側索硬化症の呼吸障害に対して ALSの症状として、運動障害(四肢脱力)、嚥下障害、コミュニケーション障害、 呼吸障害が出現します。 ここでは、呼吸障害が起こってきたときの対処法をご紹介します。 〈呼吸筋〉 肋間筋は胸郭を前後に収縮・拡大することによって胸式呼吸を行います。 腹筋と横隔膜は腹式呼吸を行う筋です。横隔膜が上下することによって、 胸郭が収縮拡大し、腹筋は息を吐くときに働きます。 ALSでは呼吸障害は徐々に出現するので、最初はほとんど自覚症状がなく、 自覚症状が出てきたときは、かなり症状が進行している場合があります。また、 風邪ひきや過労などで一過性に呼吸障害が増悪することがあります。 呼吸筋を少しでも長く維持するために呼吸筋を鍛える訓練や呼吸を整える訓練 が勧められています。 1)深呼吸訓練(横隔膜呼吸) 呼吸運動は、横隔膜が下へ押し下げられて空気を吸い込み、肋間筋や 腹筋が働いて息を吐き出します。まず、肺により多くの空気を送り込めるよ うに深呼吸訓練をします。約4秒間で息を吸い、8秒間くらいで息を吐くよう に深呼吸をします。少し休んで5〜10回繰り返し行ってください。 2)肋骨のねじり運動 呼吸に必要な筋力を維持するために、介助者の手を借りて肋間筋・腹筋 のストレッチをします。呼吸するときに、胸郭の動きを柔軟にするための運動 です。患者さんは横になり、介助者が患者さんの呼吸に合わせて行います。 まず、患者さんの膝の下にクッションを入れます。介助者は片方の手を肋 骨の下の方(脇腹)に回しもう一方の手を胸の上に置きます。患者さんが息を 吐き出すと同時にタオルを絞るように両手をねじります。脇腹から胸に向かっ て3ヵ所に分けて行います。 病院での呼吸機能検査、すなわち肺活量や動脈血酸素飽和度を定期的に測定 します。肺活量が健常時の約50%以下に減少すると、仰臥位で寝ると息苦しい、 起床時に疲労感や頭痛がする、咳をする力が弱くなるなどの呼吸障害が出現して きます。このような場合、呼吸を補助する方法として、非侵襲的人工呼吸法と気管 切開を施行して行う侵襲的人工呼吸法があります。 1)非侵襲的人工呼吸療法(NIPPV) 比較的軽度の呼吸障害の時に行われます。夜間だけとか、人工呼吸器 装着まで、あるいは緩和ケアとしての適応があります。ただし、嚥下障害や 喀痰排出困難があれば、この型の人工呼吸器では効果が認めにくいことが あります。 〈機種〉 a) I 社製 : 口元での圧の連続モニタリングと、吸気抵抗の少ない高レスポ ンスタービン採用。31B以下の作動音。小型軽量で動作音が 静かなことが特徴。 b) T社製 : オートセットモード(患者さんの上気道の状態に応じて、自動的 に圧力を調整)、マニュアルモード(固定圧力で運転)、スプリット ナイト(導入時の簡易検査や、治療に適した圧力決定を支援す る)など多彩な機能がある。 マスクが日本人の顔に合わせて独自に改良されている。 c) P社製 : 静音設計、呼気と吸気の感度を患者さんに合わせて設定でき、 患者さんの呼吸仕事量を最小限に抑えられる。 マスクの種類も多い。 d) F社製 : NIPPVの標準的機種で、最も広く使用されている。軽量小型で 車の電源が使用できる。早い応答時間(20秒)により、患者さん の呼吸仕事量を大幅に軽減する。マスクのリークや様々な呼吸 パターン変化に対し、複数のトリガーアルゴリズムから最適の条 件を選択、患者呼吸の変化に追従、呼吸をサポートする。 2)侵襲的人工呼吸療法 気管切開を施行し、人工呼吸器を装着する方法です。気管切開は侵襲型 の人工呼吸器をつける目的以外にも、喀痰を吸引器で吸引しやすくする、あ るいは嚥下障害による唾液や食物の誤嚥を防ぐ、気管切開部より上の気道 容量を減らして自発呼吸の負担を軽減するなどの効果があります。 気管切開をして人工呼吸器をつけるかどうかは患者さんの意志が第一に 優先されます。現在日本では、侵襲的人工呼吸器をつけて長期入院をする のは困難な場合も多いので、在宅で療養することも念頭におく必要がありま す。在宅療養では在宅療養費の自己負担額、介護に必要なマンパワー及び 介護時間が問題になります。家族の負担は大きいですが、地域のケア・チー ム体制が整っていれば、訪問看護師や保健師、ヘルパーなどが、介護の一 部を交代することができます。また、一時的に病院に短期入院することも可 能です。 〈機種〉 a) I 社製 : 気管切開後に用いる在宅用人工呼吸器の初期よりある機種。 家庭用AC電源(100V)ですべての機能が働く。バッテリ内蔵で、 停電時30分(フル充電)作働可能。外部バッテリや車のシガー ライターから電源を取り入れ、車イス、車に載せ、患者さんの 通院・外出・長距離移動に使用可能。 b) F社製 : 軽量小型(5.7kg)のラップトップ型の人工呼吸器。3電源(AC/ 内蔵バッテリー/外部バッテリー/シガレットライターが使える。 患者により安全で優しい高性能の換気様式を標準装備。 c) P社製 : 軽量小型のポータブルタイプ。最長4.5時間駆動可能な内臓 バッテリーを装備、外部バッテリーと併せて20時間駆動可能。 d) A社製 : 外付け充電型バッテリーで稼働する人工呼吸器。 ※停電時対応として、人工呼吸器は約1時間ぐらいのバッテリーを内臓して いるものが多いです。しかし、手動式蘇生バッグと足踏み式吸引器を 準備しておくと安心できます。 〈在宅人工呼吸療法に必要な環境整備〉 a) 介護者が、吸引、アンビューバッグによる人工呼吸法、気管切開部の 消毒などの介護技術を習得する。 b) 在宅療養にかかわる公共の福祉サービスなどを最大限に利用する。 c) 地域の開業医と病院専門医、看護士など医療関係者との綿密な連携 体制の整備を依頼する。 d) 緊急時の応需体制(連絡先など)をあらかじめ準備しておく。 文献 尾野精一、今井尚志監修:LIVE TODAY FOR TOMORROW ALSの患者さん とご家族のために No.5 呼吸が困難になってきたとき、アベンティスファー マ株式会社 |