紀伊半島のALS-parkinsonism-dementiaについて


 紀伊半島南部やグアム島は、ALSの多発地と見なされているが、この地域では
ALSとともに進行性のパーキンソン症状と痴呆を中核症状とする疾患が多発して
いる。グアム島で最初にこの疾患を神経病理学的に確立したHiranoらのより、パー
キンソニズム痴呆複合(PDC:parkinsonism-dementia complex)と命名された。
 紀伊半島におけるALS及びPDCの疫学調査は、1964年木村潔、八瀬らにより
開始され、同地域ではALSの有病率が他地域の100倍にも達するとの結果が報告
された。しかし、1970年代以降は紀伊半島でのALSの発症率は減少し、1980年代
には他地域の数倍程度に減少したと見なされた。ところが、最近の研究ではなお
高頻度に発症していることが示されている。
 紀伊ALSの特徴については別項で述べるが、紀伊PDCについての剖検例を含む
詳細な臨床及び病理学的研究は、1999年葛原らにより報告された。紀伊半島多発
地区のALSとPDCは連続スペクトル上にあり、ALS-parkinsonism-dementia
complex(ALS-PD)と考えられる。紀伊半島ALS-parkinsonism-dementiaでは、
ひとつの家系の中でALSとPDC症例が多発している。病理学的特徴は、ALS+PDC
と診断された例では、前頭葉と頭頂葉が先端部ほど高度に萎縮し、脳室拡大が
特に下角に目立つ。黒質と青斑核の色素低下を認める。顕微鏡的には海馬、側頭
葉、前頭葉、黒質、青斑核、脳幹被蓋に広汎な神経原線維変化(NFT)の出現と
細胞脱落が特徴である。老人斑やLewy小体は認めない。これ以外にALS所見、
即ち脊髄前角細胞や延髄舌下神経核細胞の消失と残存神経細胞胞体内にBunina
小体を認める。


文献
 1)Hirano.A, Malamud.N, et al: Amyotrophic lateral sclerosis complex on Guam.
   Arch Neurol 15, 35-51, 1966
 2)木村潔、八瀬善郎ら:筋萎縮性側索硬化症の研究(I)紀伊半島における地理
   医学的・疫学的及び遺伝学的研究(そのT).精神経雑誌 65, 31-38, 1963
 3)葛原茂樹:紀伊半島のALS−parkinsonism-dementia の家族性発症例 神経
   内科 50, 137-145, 1999