和歌山県立医科大学国際交流センター
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留学生の体験談

体験談

勃興するアジアの衝撃と異文化交流
上 田 洲 裕

 この度,2017年3月31日より4月5日まで,タイ王国コンケン大学で開催されたInternational Challenge of Emergency Medicine and its related basic science (ICEM) 2017に参加したので,その概要と得られた知見を報告する.
   コンケン大学はタイ王国の北東部コンケン県の中心部にあり,地域を代表する名門大学である.複数の学部を擁する総合大学であり,今回のイベントは医学部及び医学生連合が主催する大々的なものであった.開催目的は,(1)コンケン大学医学部を世界の医学生にとっての救急医学における学術交流拠点とすること,(2)救急医学に関心のある世界の医学生のネットワーク形成を奨励すること,(3)救急医学の重要性に対する意識を喚起することとされた.今回は昨年に続き2回目の開催であり,日本,台湾,中国,フィリピン,インドネシア,マレーシア,カンボジア,タイの8か国,15大学より23チームが参加した.日本からは本学のみの参加だった.
    プログラムは,添付のAgendaの通り,救急医学コンペとアクティビティの2本柱で構成されている.後者に多くの時間が割かれていることからも分かる通り,確かに今回のイベントは国際交流に重きを置いたものである.しかし,単なる交流会ではなく,コンペを通じて真剣に医学生としての能力を競うことが大きな特徴となっている.
    まずコンペに関してだが,3ラウンド制で,第1ラウンドが多選択肢式(MCQ)及び一問一答式筆記試験,第2ラウンドが短答式記述試験,最終ラウンドが客観的臨床技能試験(OSCE)及び早押し式口頭試問であった.我々のチームは残念ながら第1ラウンドで敗退となったが,少し敗戦の弁を述べるならば,各試験の詳細は当日まで発表されなかったが,昨年参加した学校は既に知っており大きな差となったことと,本学でのチーム結成から本番まで約1ヵ月半しか対策期間がなかったことは我々にとって大きなハンデとなった.しかし,これらの言い訳を抜きにしても,快進撃をなした東南アジア各国の医学生達の優秀さは特筆すべきもので,素直に負けを認めざるを得なかったのが正直なところでもある.ではその隔たりは何であったのかを考察したい.主催者スタッフに聞いたところによると,第一ラウンドのMCQでは各チームで大きな差はつかなかったそうである.我々の実感としても60〜70%程度得点できたと考えている.MCQは参加前に救急・集中治療医学講座の加藤教授ご指導のもとに勉強会を開催し,対策して臨むことができたことも大きかったと考える.一方,スタッフの話では大きく差がついたのは「書く力」であった.第1ラウンドの一問一答式と第2ラウンドでは解答は必ず専門用語で,かつ正しいスペルで書かねばならず,スペルミスは0点となる.第2ラウンド以降に進出したチームの多くはこのwriting対策を半年ほどおこなったところが多かったそうである.また,我々が専門用語を英語で記述できなかったことの背景には医学教育の違いも関係していると考える.日本は歴史的に西洋から自然科学や医学を受け入れる過程において,先人が専門用語を遂次翻訳し,ほぼ全ての日本語訳を作成してきた経緯がある.このため,我々学生はその恩恵を被り,母国語の教科書で学ぶことが出来,理解を著しく助けられている.国家試験を含むほぼ全ての試験が日本語で行われ,英語の用語も読んで理解さえできれば試験には合格できる.一方でアジア各国においては,そもそも翻訳すべき対訳や母国語で記述された教科書はほとんどない.このため,初めから英語で書かれた教科書を用い,英語で試験を受ける.よって全て英語で覚えざるを得ず,自ずと医学生には英語による用語理解と運用能力が身についている.この日頃からのトレーニングの差が今回の結果に結びついていることは明らかであった.英語の用語の重要性は講義や臨床実習でも先生方に説いていただき,その都度覚えようと試みるが,過密なカリキュラムの中で試験をクリアすべく対策に追われるうちに覚えては忘れを繰り返してしまうのが現状であり,深く反省すべきことと考えている.危機感を伴わない勉強は自分を追い込めず,身が入らないものだが,今回の一件は私にとって分かってはいてもショッキングな出来事で,このままでは国際競争に敗れることは必至とただならぬ焦燥感にかられている.この気付きが今回の最大の収穫であったようにも思う.さらにその焦りに拍車をかけたのが,アジア各国の学生の勉強熱心さである.人口も経済もまさに勃興するエネルギッシュなアジアを象徴するかのような彼らの姿勢を見ていると,いくら世界トップレベルの医療水準をもつ日本とはいえ,あぐらをかいていることはとても出来ないと思った.先人が不断の努力によって獲得した現状の地位は決して当たり前ではなく,眼の色を変えて勉強する彼らのような必死さが産みだしたものなのだと改めて気付かされた.
   そして,アクティビティについても述べておきたい.コンペは様々な学びを与えてくれたが,多くの思い出や友情を得ることが出来たのは,何よりこの充実したアクティビティがあったからに他ならない.タイ王国や北東部の文化,料理,風習も大いに堪能することができた.特に時期的にタイの旧正月に近かったことから,ソンクラーンという伝統的な水かけ祭りを催してくれた.かねてよりテレビ番組で観て知っていただけに,体験出来て実に楽しかった.その他にも本場のタイ式マッサージを体験したり,ナイトマーケットに繰り出したりと盛り沢山であった.その中でタイはもちろん,各国の学生と交流を深めることが出来た.異文化交流はまず互いの文化を尊重することから始まる.フェアウェルパーティのドレスコードが各国の伝統衣装であったため,我々は議論の末,法被を着ることにした.これが大うけで,おそらくほぼ全ての参加チームに記念撮影を求められた.そして炭坑節を皆で踊った.我々も中国やマレーシアの出し物で歌い,踊った.日本人は島国根性と言われるように,どこか内気で,排他的な国民性だと言う人がいるが,私はそんなことはないと思っている.日本は古代からあらゆる異文化を受け入れてきた土地であり,日本文化はその寛容さと独自の発展性の上に醸成されたものだ.伝統を大切にしながら,新しきを求めて成長を続けることが日本の良さである.日本人は元来異文化交流が得意であったはずだ.言語を言い訳にせず,腹を割ってコミュニケーションをとれば,それはこの上なく楽しいものだと実感することが出来た.
   ここでコンペ,アクティビティの両者に渡って特筆しておきたいことはスタッフの素晴らしさである.上述の通り主催は医学部及び医学生連合であったが,大学当局が関与するのは問題作成や施設提供などあくまで大枠であり,その他は全て学生の手によるものであった.しかしながら,そのクオリティの高さは称賛に値すべきもので,イベントの運営と進行,スタッフのオペレーション,参加者へのきめ細かな配慮,裏方での準備など,どの点をとってもプロの業者に遜色ない見事なものであった.私も学外で長らくイベント運営に関わってきたが,これだけ大規模なイベントを学生の手だけでここまで仕立て上げる大変さは想像を絶する.改めてコンケン大学の皆様に心から感謝と敬意を表する次第である.
   末筆ながら,今回の参加は実に多くの方々のご支援,ご協力の上に成り立ったものです.奥田育英会様には物心両面に渡りご支援を頂戴しましたことを厚く御礼申し上げます.また今回の我々の挑戦を温かく応援してくださった岡村吉隆学長,改正恒康教授には心から感謝致します.加藤正哉教授には,大変ご多忙の中,毎週勉強会を開催していただき,実に多くをご教授いただきました.置塩裕子先生には,準備の段階から貴重な時間をお割きいただき,現地にもアドバイザーとして同行していただきました.救急・集中治療医学講座の山口さん,山縣さんには,いつお邪魔しても温かく迎えていただき,励ましていただきました.重松隆教授はじめ腎臓内科学講座の皆様には臨床実習のご配慮をいただきました.国際交流センターの林さんには,詳細にわたりプログラムに関する手続きをしていただきました.そして,今回共にチームを組んでくれた井口豪人君,奥村晃平君,古市瑞歩さんには参加のきっかけを作ってもらい,多くの学びと感動を与えていただきました.さらに,ここには書ききれない現地で出会った方々,学内外の関係者の皆様,今日の大学間の関係を気付いてくださった先輩方に心より感謝の意を表し,後輩諸君がさらにこの交流を盛り上げてくださることを願って,この報告を結びます.本当にありがとうございました.

和歌山県立医科大学医学部医学科 5年

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