皮膚科に関わって32年となり、昔のアトピー性皮膚炎に関する思い出話を述べてみたい。私が学部四回生で皮膚科の入局を考えた1977年の秋の事であるが,皮膚科の医局に来るようにとの指令が当時の助教授(今村貞夫先生)からきた。どんな研究をしているのかと思い、汚い医局に伺ったところヌーッと現れたのが当時の京大講師の上原正巳先生(1978年から滋賀医大)であった。今でこそ京大の皮膚科同門で活躍されている先生方の多くは能弁であるが、当時は全く逆で朴訥あるいは人見知りする研究肌の先生方が多かった。上原正巳先生が若干どもりながら、熱心に延々とアトピー性皮膚炎の疫学から始まり原因・治療などを、自分自身の臨床経験と論文をもとに説明してくださった事を思い出す。当時、免疫学アレルギー学が急速な発展を遂げていた時代で、私個人的にはマウスやin vitroの研究に興味があったので、幸か不幸か上原先生の弟子にはならなかった。
当時から,アトピー性皮膚炎の一般常識に対して一家言持っておられた。印象に残っている事をあげると、発症は季節型でなく通年型が多くなっている、15%に魚鱗癬が合併している、気道アトピーと遺伝的背景は同一ではない、IV型アレルギーの関与、ステロイド外用の安全性と有用性、左右塗り分け法の重要性、ステロイドの内服療法の有効性などなどである。2010年の現在から考えれば多くは常識的な事かもしれないが、30年以上前は異端でもあった。時代は、アトピー性皮膚炎への様々な抗ヒスタミン薬の有用性の検証、アトピービジネスの流行、ステロイド外用剤の忌避の風潮そしてガイドライン作成へと経時的にあるいは同時的に推移してきた。日本人アトピー性皮膚炎患者の30%弱で、フィラグリン遺伝子変異がその発症因子となっていることが明らかとなったのは最近の事である。
そのような流れに無関心かのごとく、あくまでもヒトにおこった事象を予断なくまとめ、その結果に多くの真理が含まれている事を知った時に、臨床研究のあり方を教えられたような気がした(上原正巳:アトピー性皮膚炎の臨床、金芳堂、2003年)。和歌山医大初代学長古武彌四郎先生の有名な一節を最後に紹介する。
本も読まなくてはならぬ/考えてもみねばならぬ
しかし/凡人は/ 働かなくてはならぬ
働くとは/ 天然に親しむことである
天然を見つめることである
かくして/天然が見えるようになる
(古川福実:巻頭言 アトピー性皮膚炎の個人的昔話、アレルギーの臨床 2010年12月号 p.13)
