てんかんの重症度に関連する脳機能指標を世界で初めて発見
発表日時 | 令和3年1月28日(木) 10:00~10:45 |
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場所 | 和歌山県立医科大学 特別会議室(管理棟 2階) |
発表者 | 脳神経外科学講座 助教 中井康雄 |
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発表内容
ポイント
安静時機能的MRIを用いたネットワーク解析によって、てんかんの重症度と関連する指標を見出すことに成功した。
本研究で用いた脳機能指標が、一人一人の患者の脳の状態を客観的に評価し、てんかんの薬物治療の効果判定、外科治療の適応や効果判定に役立つことが期待される。
1.背景
てんかんは大脳皮質の過剰興奮によって、意識消失やけいれんを引き起こす慢性神経疾患であり、罹病率は約100人に1人、発病率は10万にあたり年間45人と言われている。てんかんは病態により部分てんかんと全般てんかんに分類される。部分てんかんでは脳の一部から過剰興奮が起こるのに対し、全般てんかんでは脳全体で過剰興奮が起こる。てんかんの症状は、全身のけいれん、しびれ、意識消失、動作停止、視野視覚の異常など、障害される脳の部位によって非常に多彩である。原因としては、脳卒中、脳腫瘍、外傷、感染、遺伝子異常などが挙げられる。てんかんの治療の第一選択は、薬物療法(抗てんかん薬)であり、7~8割の患者で発作消失が得られる。一方、薬物療法で十分な発作コントロールが得られない難治性てんかん患者に対しては、外科治療が選択肢の一つとなる。特に難治性部分てんかんに対しては外科治療が有用な場合があり、7~8割の患者で発作消失が得られると言われている。しかしながら、手術で十分な発作コントロールが得られない症例もある。その原因の一つとして、従来の診断や検査で検出される情報だけでは、術前の脳の状態の評価が不十分な症例があると考えられた。そこで、本研究では、安静時機能的MRIを用いた脳機能ネットワーク解析の結果に基づき、脳内の状態を評価し、てんかん患者の重症度との関連がないかを調べた。その結果、重症度と関連する指標を見出すことに成功したので報告する。
2.研究手法・成果
難治性部分てんかん患者25名、健常者582名に対して、安静時機能的MRIが撮影された。安静時機能的MRIで得られるBOLD信号を用いて、脳の領域間の機能的結合(つながり)があるかどうかを測定し、個々人の脳内のネットワーク構造が作成した。その構造をもとに正規化アルファ中心性という解析手法を用いて、脳の各部位でのネットワークの特徴を数値化した。本研究の特徴は、その数値の基準値を、多数の健常者のデータの分布に基づいて決定したことである。結果は、個々のてんかん患者では、健常者に比べて基準値を超える値を示す領域が多く、難治性部分てんかんに共通するネットワークの変化が示唆された。また、つながりの強い領域が多いほど、罹病期間が長く、また使用している抗てんかん薬の数も多い傾向にあり、本手法が、てんかんの重症度に関連していることが示唆された。
3.波及効果
本研究手法で得られる脳機能指標は、難治性てんかん患者における外科治療の適応、抗てんかん薬や外科治療の治療効果判定に有用となる可能性があり、個々のてんかん患者の脳の状態に合わせた治療方針の決定に役立つことが期待される。また、てんかん分類ごとに解析を行うことでてんかん病態解明の一助となることが期待される。
図
A:代表症例におけるネットワーク値の分布。てんかん患者の方が健常者に比べて0.5以上の高い値を示す領域が多い傾向にあった。
B:つながりの強い領域の数と臨床パラメータの相関。罹病機関(左)、抗てんかん薬の数(右)において、有意な相関を認めた。
C:つながりの強い領域の空間分布。罹病期間が長いほどつながりが強い領域が多い傾向にあった。(罹病期間:左から3年、25年、37年)
4.発表雑誌
Yasuo Nakai, Hiroki Nishibayashi, Tomohiro Donishi, Masaki Terada, Naoyuki Nakao, Yoshiki Kaneoke
"Regional abnormality of functional connectivity is associated with clinical manifestations in individuals with intractable focal epilepsy"
Scientific Reports
(英国時間2021 年 1月15 日付けの電子版に掲載)
DOI: 10.1038/s41598-021-81207-6
https://www.nature.com/articles/s41598-021-81207-6
和歌山県立医科大学医学部
脳神経外科学講座 助教 中井康雄
脳神経外科学講座 教授 中尾直之
生理学第1講座 教授 金桶吉起
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