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記者発表

新しいオピオイド鎮痛薬の開発 ―安全かつ依存性のない鎮痛薬―

発表日時 平成30年9月6日(木) 14:00~14:40
場所 和歌山県立医科大学管理棟2階 特別会議室
発表者 和歌山県立医科大学医学部薬理学講座 講師 木口倫一
                  教授 岸岡史郎

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発表内容

概要

安全に使用できるオピオイド鎮痛薬の開発・実用化が国際的に求められている。我々はノシセプチン(NOP)受容体およびμ(ミュー)オピオイドペプチド(MOP)受容体の両者に結合する新しいオピオイド化合物(AT-121)を合成し、非ヒト霊長類(アカゲザル)を用いてその薬効を評価した。AT-121は全身投与においてモルヒネよりも約100倍強い鎮痛効果を有していた。一方で、呼吸抑制や掻痒感などの有害作用は認められなかった。さらに重要な点として、AT-121を反復投与しても耐性や精神的・身体的依存を生じなかった。今回の発見は、新しい機序による安全かつ依存性のない鎮痛薬の実用化に繋がるものであり、国際社会において極めて大きい波及効果をもたらすと考えられる。

背景

痛みは生体における警告系として不可欠であるものの、がん性疼痛などの過剰な痛みは適切に除去されなければならない。特にオピオイド鎮痛薬はがん性疼痛の緩和医療において重要な治療薬である。その一方で、依存性や呼吸抑制などの有害作用もあることから、適正な使用が求められる。近年、米国においてはオピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死亡例が年々増加しており、社会的な問題となっている。対照的に、日本においては有害作用への懸念からオピオイド鎮痛薬の使用を躊躇する事例が多いとの報告がある。すなわち、安全に使用できるオピオイド鎮痛薬の開発・実用化は国際的に重要かつ喫緊の研究課題である。

モルヒネに代表されるオピオイド鎮痛薬は、主にμ(ミュー)オピオイドペプチド(MOP)受容体を介して作用する(図1)。鎮痛効果のみならず、依存性、呼吸抑制、搔痒感などの有害作用もまたMOP受容体を介するため、有害作用のみを減弱することはこれまで困難であった。オピオイド受容体に分類されるノシセプチン(NOP)受容体は霊長類において鎮痛効果を有しつつ、依存性などの有害作用を生じないことが以前に報告されていた。そこで我々は、NOP受容体とMOP受容体の両者に結合する化合物(AT-121)を合成し、安全かつ依存性を示さない新しい鎮痛薬としての可能性を非ヒト霊長類(アカゲザル)を用いて検討した。

方法

NOP受容体およびMOP受容体に対する親和性を指標とし、その両者に結合するAT-121を新たに合成した。アカゲザルの尾を50℃の温浴に浸した際の逃避反応時間をもとに鎮痛効果を評価した。引っ掻き行動の回数から掻痒感を評価した。また、自発的にレバーを押すことで静脈内カテーテルから薬物が注入される環境で精神的依存を評価した。さらに、腹部に留置したテレメトリー送信機により活動時の呼吸数、血圧、心拍数などを測定することで、急性毒性および身体的依存を評価した。

結果

AT-121を単回皮下(全身)投与すると、数時間持続する鎮痛効果が認められ、その強さはモルヒネの約100倍程度であった。その際に掻痒感は生じなかった。またモルヒネとは異なり、AT-121を反復投与しても鎮痛効果に対する耐性は殆ど生じなかった。依存性のあるオピオイド鎮痛薬であるオキシコドンとは異なり、AT-121は強化効果を生じなかった。さらにAT-121はオキシコドンの強化効果を減弱した。AT-121は鎮痛用量の10倍を投与しても、呼吸抑制や循環器系への有害作用は認められなかった。加えて、モルヒネとは異なり、AT-121を反復投与しても身体的依存は生じなかった。

結論

MOP受容体およびNOP受容体の両者に結合する化合物であるAT-121は、モルヒネよりも強い鎮痛効果を有する一方で、依存性や呼吸抑制などの有害作用は生じないことが明らかになった(図2)。また、これらの薬理学的特徴は霊長類において立証されたことも重要な点である。今回の発見をもとに新しい機序による安全かつ依存性のない鎮痛薬が実用化されれば、がん性疼痛患者にとって福音となるとと共にオピオイド鎮痛薬の乱用防止にも繋がり、国際社会において極めて大きい波及効果をもたらすと考えられる。

掲載論文

Ding H*, Kiguchi N*, Yasuda D, Daga PR, Polgar WE, Lu JJ, Czoty PW, Kishioka S, Zaveri NT, Ko MC. (*equal contribution)
A bifunctional nociceptin and mu opioid receptor agonist is analgesic without opioid side effects in nonhuman primates.
Sci Transl Med 10, eaar3483 (2018).