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記者発表

静脈血栓融解の分子メカニズムの解明と新規治療法開発への挑戦

発表日時 平成30年8月24日(金) 14:00~14:20
場所 和歌山県立医科大学図書館棟3階 生涯研修センター研修室
発表者 和歌山県立医科大学医学部法医学講座 教授 近藤稔和

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発表内容

概要

肺動脈血栓塞栓症とは、心臓から肺に血液を送る肺動脈に血栓(けっせん)といわれる血液の塊が詰まるために起こる病気で、欧米で多い疾患とされていた。近年日本でもエコノミークラス症候群という名前で知られるようになり、また、地震等の災害被害者が車両内で避難生活を送ることでも、肺動脈血栓塞栓症が生じる危険性が高くなるなどの報道がされている。肺動脈に詰まる血栓は、様々な原因で下肢などの静脈内で血液が凝固して生じ、血液の流れに乗って肺に達する。大きな血栓が肺動脈を塞ぐと、酸素を取り込めなくなったり、心臓から血液を押し出せなくなり、突然死の原因にもなることがある。
したがって、肺動脈血栓塞栓症の原因である静脈内で生じる血栓形成を抑制することが、肺動脈血栓塞栓症発症の予防につながる。今回我々は、炎症反応・免疫反応に関連するタンパク質である腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor-α,TNFα)が、静脈内で生じた血栓の融解を促進させる作用があることを明らかにし、静脈血栓の新規治療法開発のための可能性を示した。

1.背景

肺動脈血栓塞栓症とは、心臓から肺に血液を送る肺動脈に血栓(けっせん)といわれる血液の塊が詰まるために起こる病気で、突然死の原因での一つで、欧米で多い疾患とされていた(図1)。近年、食生活の変化とともに日本でも増加傾向にあり、特にエコノミークラス症候群という名前で広く知られるようになった。また、地震等の被災者が車両内で避難生活を送ることでも、肺動脈血栓塞栓症が生じる危険性が高くなるなどの報道がされている。肺動脈に詰まる血栓は、下肢などの静脈内で血液が凝固して生じ、血液の流れに乗って肺に到達し、この血栓が大きい場合は死に至る。静脈内に血栓が生じやすくなる原因としては、肥満、脱水、長期の寝たきり、下肢の外傷、癌など様々である(図1)。
したがって、静脈内に血栓が生じることを防ぐことが、肺動脈血栓塞栓症の予防につながる。しかしながら、有効な治療法が未だに確立されていない。血栓の形成・融解には種々の細胞が関与していることから、特にマクロファージと呼ばれている免疫細胞に着目し、それらが産生するタンパク質である腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor-α,TNFα)が、静脈内で生じた血栓の融解を促進させる作用があることを明らかにしたので、報告することとした。

2.研究手法・成果

【研究手法】

野生型マウスと遺伝子操作によりTNFαの受容体であるTNFレセプターp55(I型TNFレセプター)を欠損したマウスの下大静脈を結紮して静脈血栓形成を誘導し、その大きさを比較した(図2)。さらに、TNFαの抑制剤またはTNFαを野生型マウスに投与して血栓形成を比較した。

【成果】

野生型マウスとTNFレセプターp55(TNFRp55)欠損マウスで静脈血栓を比較検討したところ、下大静脈結紮3日目までは同程度の大きさの血栓が観察された。その後、野生型マウスでは、次第に血栓が小さくなる傾向を示したが、TNFRp55欠損マウスで血栓の縮小傾向が顕著ではなく、下大静脈結紮5および10日目では野生型マウスに比較して明らかに大きな血栓が観察された(図2)。さらに、TNFα抑制剤を投与された野生型では、TNFRp55マウスと同様に投与しない野生型マウスと比較して大きな血栓を認めた。一方、TNFαを投与された野生型では、投与しなかった野生型マウスと比較して血栓がさらに縮小していた。

また、プラスミノーゲンアクチベーター(Plasminogen Activator, PA)やマトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase,MMP)と呼ばれるタンパク質が血栓を直接的に融解することが知られている。野生型マウスに比較して、TNFRp55マウスでは、MMP-2、MMP-9およびウロキナーゼ型PA(urokinase-type PA, uPA)の発現が明らかに減弱していた(図3)。さらに、TNFRp55を発現しているマクロファージと呼ばれる免疫細胞にTNFαを添加して培養したところ、MMP-2、MMP-9およびuPAの発現が増強したが、TNFRp55を発現していないマクロファージではこの効果は認められなかった。以上のことから、TNFαがTNFRp55を介して、マクロファージから、MMP-2、MMP-9およびuPAを誘導することで、血栓融解作用を有していることが明らかにされた。

3.波及効果

TNFαが複数の血栓融解因子(MMP-2、MMP-9およびuPA)の発現に関与していることを明らかにした。これらのことは、今後、TNFαおよびその情報伝達経路を分子標的とする新たな血栓融解療法の開発が期待される。

掲載誌

Contribution of the TNF-α (Tumor Necrosis Factor-α)–TNF-Rp55 (Tumor Necrosis Factor Receptor p55) Axis in the Resolution of Venous Thrombus.
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. 2018;0:ATVBAHA.118.311194

<用語解説>
肺動脈血栓塞栓症
深部静脈血栓が遊離して静脈血流によって肺に運ばれ、肺動脈を閉塞することにより呼吸循環障害を生ずる病態を肺血栓塞栓症という。日本ではエコノミークラス症候群として知られるようになった。

深部静脈血栓症
下肢および骨盤内などの深部静脈に血栓が生じた状態を深部静脈血栓症という。原因として肥満、脱水、長期の寝たきり、下肢の外傷、癌など様々である。我が国では、車内で避難生活を送る災害等の被災者に高率に発症することが問題となっている。

腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor-α,TNFα)
腫瘍壊死因子(TNF)は腫瘍壊死作用を有する活性化マクロファージ由来のサイトカインとして見出された。このTNFに構造的な相同性を示す活性化リンパ球由来の物質にリンフォトキシンがある。一般に前者をTNF-α、後者をTNF-βと呼び、単にTNFという場合はTNF-αを意味する。その生物活性は多様で発熱や種々の炎症反応を惹起することから、炎症反応の一つのメディエーターと考えられている。

TNFレセプター
TNF-αの生物活性はI型とII型のレセプターを介して誘導される。I型TNFレセプター (TNFRp55)は、大半の組織で TNFα が結合して活性化される。一方、II型TNFレセプター(TNFRp75)はおもに免疫細胞に発現し、TNF-α と TNF-βの双方により活性化される。