病理学講座

講座概要

本学の病理学講座は、和歌山県立医学専門学校が設立された翌年の昭和21年、岡野錦弥先生が開設されました。昭和23年からは新井恒人先生が主宰されましたが、その間の昭和32年から病理学講座は病理学第一講座と病理学第二講座の2講座になりました。そのうち本講座は病理学第一講座を祖にし、小田冨雄先生、大島章先生、村垣泰光先生が教授を歴任され、令和3年より江帾正悟が当講座を担当しています。 なお、病理学には病理診断学と実験病理学がありますが、平成27年より本講座は実験病理学を専門とし、研究と教育を特化にした講座として、現在のようにふたたび病理学講座を標榜しています。長年にわたる伝統を引き継ぎ、さらに講座を発展させるため、室員一同、心を新たに邁進いたします。

教育概要

教育では医学部3年生の病因と病態(病理学総論・各論)の講義と実習、医学部3年生の基礎配属を担当しています。また保健看護学部1年生の基礎病態学の講義も行っています。大学院生や大学院準備過程学生の研究では、所定の期間に論文を発表することを目標として指導を行っています。

室員紹介(2022年11月現在)

教授 江帾 正悟 腎がん転移における微小環境の機能解析
各種がん細胞の転移のメカニズムの解明
がんの進展におけるTGF-βファミリーの機能解析
講師 及川 恒輔 粘液型脂肪肉腫特異的キメラがんタンパクTLS-CHOPの機能解析
コヒーシン制御因子WAPLの腫瘍関連機能の解析
講師 中西 雅子 がんの骨転移機構の解析
がんの進展における微小環境の関わり
非常勤講師 尾﨑 敬 甲状腺の発生
マイクロウェーブの作用
研究補助員 谷端 理恵子  
大学院準備過程 井邊 晶也  
大学院準備過程 森下 清登  
大学院準備過程 東本 胡桃  

研究概要・業績

研究は教員が大学院生・学部生を指導する形で行っています。目標は分子病理学的研究によって、疾患、特にがんの発生、進展と転移の分子メカニズムを明らかにすることです。解析対象には培養細胞系にとどまらず、疾患モデルマウスを多用します。特に中心的にすすめているがん研究では、多様な移植モデルを使い分けた解析をおこなっています。また解析方法に関しては、病理組織学的解析のみならず、生化学的、分子生物学的、細胞生物学的解析など、多角的な手法から研究を進めています。

研究テーマ(1) がんのリンパ行性転移における酸性微小環境の関わり

がん組織は周辺の正常組織よりも酸性に傾いていることが知られています。この酸性微小環境は、がん細胞自身に作用して、がん細胞の増殖を促進します。同時に、MMPの活性化を引き起こすなど、浸潤能や転移能といった悪性形質の獲得にも関与することが示唆されています。研究室では、がん患者さんの予後に関わるリンパ節転移に対して、酸性微小環境がどのように関係しているかに着目しています。リンパ管内皮細胞の培養系を用いて遺伝子発現の変化やがん細胞との相互作用について検討し、リンパ節転移のマウスモデルを用いた解析を行っています。

癌の酸性微小環境とリンパ行性転移図

研究テーマ(2) 粘液型脂肪肉腫特異的キメラがんタンパクTLS-CHOPの機能解析

発生頻度が低い希少がんに対する研究が求められています。希少がんのひとつである肉腫は、非上皮性細胞から発生する悪性腫瘍の総称ですが、肉腫ではそれぞれの組織型特異的に融合遺伝子が形成され、その機能に注目が集まっています。粘液型脂肪肉腫では、融合遺伝子TLS-CHOPやEWS-CHOPが形成され、それがコードするキメラがんタンパクが腫瘍の進展に寄与すると考えられています。研究室では、標的遺伝子の検索など、TLS-CHOPによって引き起こされる腫瘍の進展の分子メカニズムを解析しています。

研究テーマ(3) がんの進展におけるTGF-βファミリーの機能解析

TGF-βは、元来は間葉系細胞の形質転換を促進する因子の一つとして発見されましたが、その後、多くの細胞の増殖を抑制するサイトカインであることが明らかとなりました。つまり、 TGF-βシグナルはがん抑制因子として機能していると考えられています(がん抑制作用)。一方で、多くの進行したがんではTGF-βの産生が亢進しており、 TGF-βはがん細胞の浸潤・転移を促進することもわかっています(がん促進作用)。さらにTGF-βはがん細胞をとりまく微小環境(線維芽細胞・血管内皮細胞・免疫細胞)に様々な働きをすることで、さらにがんの進行を促進します。結果として、がんの進展において TGF-βは状況依存的に作用しており、その多彩な作用を明らかにする研究を目指しています。またTGF-βと同じくTGF-βファミリーに属するBMPにも着目したがん研究を行っています。

がんの進展におけるTGF-βの二面的な作用図

市民講座「がんの転移について」はこちら

  • Sato F, Kohsaka A, Tanimoto T, Bhawal UK, Muragaki Y.
    Histological analysis of a Becker muscular dystrophy case, diurnal expression of dystrophin in control mice and decreased expression of dystrophin in Bmal1 knockout mice.
    Histol Histopathol. 2022 Jul 25:18499.
  • Ehata S, Miyazono K.
    Bone Morphogenetic Protein Signaling in Cancer; Some Topics in the Recent 10 Years.
    Front Cell Dev Biol. 2022 May 25;10:883523.
  • Nishida J, Miyakuni K, Miyazono K, Ehata S.
    An in vivo orthotopic serial passaging model for a metastatic renal cancer study.
    STAR Protoc. 2022 Apr 18;3(2):101306.
  • Sato F, Bhawal UK, Osaki S, Sugiyama N, Oikawa K, Muragaki Y.
    Differential immunohistochemical expression of DEC1, CK‑1ε, and CD44 in oral atypical squamous epithelium and carcinoma in situ.
    Mol Med Rep. 2022 May;25(5):159.
  • Kumagai K, Takanashi M, Ohno SI, Harada Y, Fujita K, Oikawa K, Sudo K, Ikeda SI, Nishi H, Oikawa K, Kuroda M.
    WAPL induces cervical intraepithelial neoplasia modulated with estrogen signaling without HPV E6/E7.
    Oncogene. 2021 May;40(21):3695-3706.
  • Murakami D, Kono M, Nanushaj D, Kaneko F, Zangari T, Muragaki Y, Weiser JN, Hotomi M.
    Exposure to Cigarette Smoke Enhances Pneumococcal Transmission Among Littermates in an Infant Mouse Model.
    Front Cell Infect Microbiol. 2021 Mar 31;11:651495.
  • Nakanishi M, Korechika A, Yamakawa H, Kawabe N, Nakai K, Muragaki Y.
    Acidic microenvironment induction of interleukin-8 expression and matrix metalloproteinase-2/-9 activation via acid-sensing ion channel 1 promotes breast cancer cell progression.
    Oncol Rep. 2021 Mar;45(3):1284-1294.
  • Ono K, Hata K, Nakamura E, Ishihara S, Kobayashi S, Nakanishi M, Yoshida M, Takahata Y, Murakami T, Takenoshita S, Komori T, Nishimura R, Yoneda T.
    Dmrt2 promotes transition of endochondral bone formation by linking Sox9 and Runx2.
    Commun Biol. 2021 Mar 11;4(1):326.
  • Enaka M, Nakanishi M, Muragaki Y.
    The Gain-of-Function Mutation p53R248W Suppresses Cell Proliferation and Invasion of Oral Squamous Cell Carcinoma through the Down-Regulation of Keratin 17.
    Am J Pathol. 2021 Mar;191(3):555-566.
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